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SPAIN 心は既に壊れかけているのか... [THE JOURNALISTC]

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リーガ・エスパニョーラ  《ヘスス・スアレス記者》
モウリーニョ監督率いるマドリーの歯車が、微妙に狂い始めている。効率性を重視したスタイルが機能せず、格下相手にも取りこぼす始末。大勝後も虚しさしか残らないチームでは、ついに指揮官の采配を疑問視する声も...。

無様に守ったイタリア人と モウは非常に酷似した存在
【2007年3月、当時のレアル・マドリーのDFで私の友人の一人であるミチェル・サルガド(現ブラックバーン・ローパーズ所属)が、苦々しげに打ち明けてくれた話がある。
俺達は、キックオフの前からボールを保持することを諦めていた。つまり、プロのフットボーラーでありながら、試合を“捨てた”わけだ。ツケを払わされたのは当然さ
 2006ー07シーズン、マドリーはチャンピオンズ・リーグ(以下CL)のベスト16でバイエルン・ミュンヘンと対戦。本拠地での第1レグを3ー2でモノにした彼らは、1点をリードして敵地のミュンヘンに乗り込んだ。
 当時のマドリーの指揮官は、ファビオ・カペッロ(現イングランド代表監督)。カルチョの国からやって来た結果至上主義者は、この大事な第2レグで、文字通り「乱心」したとしか思えない采配を試みた。あろうことか、チーム屈指のボールアーティストであるグティをベンチに置き、エメルソン、フェルナンド・ガゴ、マアマドゥ・ディアッラという3人の守備的MFを、最終ラインの前に並べたのだ。
( ー 中 略 ー )
 後半に追加点を奪われたマドリーは、終了間際に1点を返すのが精一杯。2試合の合計スコアは4ー4ながら、アウェーゴール2倍ルールにより、敗退を余儀なくされたのだった。
 M・サルガドの話はこう続く。
「あの試合の後、ラウールと俺はチームを代表してミステル(監督)に言ったんだ。『もうトリプルボランチだけは勘弁してくれ』ってね」
 選手達は戦いながら、痛烈に違和感を感じていたのだろう。カテナッチョが伝統のイタリアではいざ知らず、3人の守備的MFを同時に起用し、ボールゲームを捨てるなど、マドリーでは絶対にあり得ないからだ。
 牙をもがれた狼の如く、唸ることしか出来ずに叩きのめされる姿は、マドリディスタにとっても屈辱以外の何物でもなかった。
 カペッロのマドリーはそのシーズン、リーガ・エスパニョーラを制するが、称えられるべきは、最後までマドリーらしさを貫こうとしたラウール・ゴンサレスやM・サルガドらベテラン選手であり、間違っても指揮官ではない。
 マドリーのようなメガクラブを率いながら、無様に守り、カウンターで姑息に勝ち点を稼ごうとしたのが、“世界的名将”の呼び声高いカペッロの正体だった。そして現在、そのマドリーで指揮を執るジョゼ・モウリーニョは、当時のカペッロと非常に酷似した存在となっている。

選手達が指揮官の采配に 疑問を抱き始めている
●ピッチ外での行き過ぎた言動により、その人間性を非難されたモウリーニョ。彼は今、指揮官としての能力すら問われ始めている。
●エジルの重要性を再認識させられたのがラージョ戦。先制されたマドリーが同点としたのは、司令塔投入のおよそ10分後であった。
【6節のラージョ・バジェカーノ戦でモウリーニョは、ラッサナ・ディアッラ(以下ラス)という凡庸極まりないMFを起用し、メスト・エジルをベンチに置いた。当然ながら、チームは試合開始直後からボールをキープすることさえままならず、1分に先制弾を浴びてからは更に混乱が増幅。本拠地サンチャゴ・ベルナベウはたちまち大ブーイングに包まれた。
 モウリーニョが動いたのは28分。自信を持ってピッチに送り出したラスをさっさとベンチに引っ込め、エジルを投入したのである。これで攻撃の形を作れるようになったチームは、前半にウチに逆転に成功。最終的には6ー2の大勝を収めている。
 効率性___。それがモウリーニョのフットボールの代名詞と言っていい。守備のリスクを減らすため、タフな選手を中盤と最終ラインに数多く配し、前線にはカウンターから少ない手数でゴールを奪える走力と決定力を備えたプレーヤーを起用する。バルセロナとは、ちょうど対極に位置するスタイルと断言できるだろう。
 ところが、今シーズンはそのやり方が思ったように機能していない。その結果、4節のレバンテ戦を落とし(0ー1)、続くラシン・サンタンデール戦はスコアレスドロー、そして弱小ラージョにも先制点を奪われるという、不甲斐ない戦いを見せている。
 高度な戦術の使い手でなくとも、ある程度経験を積んで来た監督であれば、マドリーを倒すための策はすぐに見つけられるだろう。ボールの出所であり、カウンターの起点でもあるシャビ・アロンソを潰せばいいのだから。このバスク人MFを封じれば、前線でボールを待つ屈強なアタッカー達はたちまちその勢いを失い、チーム全体が機能不全に陥る。
 唯一シャビ・アロンソと連係し、ゲームを作るプレーに参加できていたのがエジルだった。中盤の低い位置まで下がってボールを受け、パスを捌いて又前へ出る。その繰り返しだけで彼は敵を幻惑し、攻撃の潤滑油となっていた。
 マドリーの生命線が、シャビ・アロンソとエジルであるのは明らかだ。この二人に対する依存度が高過ぎるからこそ、私はこれまで、「エステバン・グラネロを起用してボールの供給源を増やすべきだ」と、再三論じて来たのである。グラネロはインテリジェンスのアル選手で、ボールを動かし、攻撃の起点になることができる。
 カカというファンタジスタもいるが、私に言わせれば、彼はよりFW的な選手。むしろ、カウンターなどの場面で“周りから生かされる選手”と言っていいだろう。
 話を戻すが、そんなエジルを、モウリーニョはラージョ戦で愚かにもベンチに置いた。となれば、中盤でゲームを作れるのはシャビ・アロンソひとり。“昇格組”が相手とはいえ、マドリーが劣勢に立たされたのは、当然の帰結だった。そして皮肉にも、モウリーニョを救ったのはエジルだった。
 おそらく、ラウールやM・サルガドがカペッロに対してそうだったように、マドリーの選手達は今、指揮官の采配について疑問を抱き始めているだろう。監督を信頼していいのか、このフットボールで本当にタイトルまで辿り着けるのか、と。
 ただ意外にも、そうしたチーム内のネガティブな雰囲気を我々が知るのは、選手達の証言からではなく、指揮官モウリーニョの行動からだった。】

4ー0の大勝を収めながら “負けゲーム”の雰囲気に
4ー0の勝利を収めたエスパニョール戦は、主力の多くが欠場したこともあり、不満の残る内容に。スコアほどの差は見られなかった。
【10月2日のエスパニョール戦(7節)を前にして、モウリーニョはサプライズでバーベキューパーティーを企画し、9月30日のトレーニング終了後に選手とスタッフを招待。その様子はクラブのオフィシャルホームページでも紹介されていたが、私には、そうした指揮官の行動が、逆にチーム内の混乱を証明しているように思えてならなかった。
 それにしても、チーム内の結束を強めるための手段がバーベキューパーティーとは、なんと浅はかで陳腐で安っぽいことか。“スペシャル・ワン”を自称する男は、そこまで追い詰められてしまったというのか。
 今夏にヘタフェに移籍したペドロ・レオンが、「モウリーニョには辱(はずかし)めを受けた」と発言するなど、ピッチ外における“人間モウリーニョ”の評価は目に見えて落ちている。
 また最近は、マドリーで厚遇されている選手の中に、モウリーニョの代理人を務めるジョルジュ・メンデスの顧客・・・クリスチアーノ・ロナウド、ファビオ・コエントラン、アンヘル・ディ・マリア、リカルド・カルバリョ、ペペなど・・・が多く含まれていることも問題視されており、他の代理人と契約している選手達の不満が高まりつつアルという。
 身から出た錆とはいえ、現在モウリーニョは四面楚歌の状況にある。・・・(略)・・・。
 改めて言うまでもなく、彼はタフな男だ。最後まで戦い抜く覚悟は当然あるだろう。しかし、フットボールの喜びを捨て、効率性にこだわり、勝利だけを求めて、一体何を得られるというのか。
 ラシン戦のハーフタイムに、マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長は、モウリーニョを抱き締めたという。それが単なるパフォーマンスだったのかどうかは知る由もないが、以前当コラムでも触れたように、私自身も今年2月のリアソール・スタジアムで、そうした衝動に駆られている。スコアレスドローに終わったデポルティボ・ラ・コルーニャ戦の後、あまりに孤独で、憔悴し切っているかのようなモウリーニョの姿を見た時だ。
 あれから8カ月。ポルトガル人指揮官の心は、既に壊れかけているのかも知れない。
 件(くだん)のエスパニョール戦、マドリーは4ー0の大勝を収めた。しかし、それは戦力が絶対的に上回っていたからに過ぎない。内容は明らかにエスパニョールの方が良く、実際にゲームをご覧になった方なら分かると思うが、マドリーにとってあの試合は、完全なる“負けゲーム”だった。
 モウ・マドリーは今後も勝利を重ねて行くだろう。だが、このままのスタイルを貫き、仮にタイトルに辿り着いたとしても、かのイタリア人指揮官の下でリーガを制した06ー07シーズンのように、後には虚しさしか残らないはずだ。】 《この項・了》



《ワールドサッカーダイジェスト:2011.11.3号_No.350_記事》
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