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ITALY イタリアの退潮を物語る夏の移籍 [THE JOURNALISTC]

[サッカー][目] [耳]  [手(グー)]
セリエA(アー)  《ジャンカルロ・パドバン記者》
終わってみれば、ビッグディールに乏しかった夏の移籍。浮き彫りになったのはイタリアの退潮だ。ワールドクラスのトッププレーヤーには、もはや理由がないのだろう。セリエAを新天地に選ぶための、もっともな理由がだ。

レンタルと共同保有に加え 閉店間際の駆け込みで...
●夏の移籍マーケット最終日に最大の注目を集めたのが、サラテのインテル移籍。有能とはいえ、ラツィオで戦力外となったFWだった。
●33歳のクローゼだけでなく、31歳のシセももはやベテラン。ラツィオが嬉々として譲り受けたのは、「終わりが近付いている使い古し」の両戦力だ。
【イタリアの退潮を改めて印象付ける夏となった。ヨーロッパリーグ(EL)は予選3回戦でパレルモが、プレーオフでASローマが姿を消した。欧州カップ戦にイタリア勢が5チームしかエントリーできなかったのは、実に27シーズンぶり。不名誉としか言い様がない。
 今シーズンからイタリアのチャンピオンズ・リーグ(CL)出場枠は、従来の4枠が3枠に減らされている。UEFAカントリーランキングでドイツに追い抜かれ、4位に転落した結果だが、3位以内に与えられる4枠にいつ戻せるかは想像すら出来ない。
 カルチョメルカート(移籍市場)は少なくとも2年前の夏から、レンタル、共同保有、そして“閉店間際の駆け込みセール”で成り立っている。今夏の最後の打ち上げ花火となったマウロ・サラテにしても、移籍先がインテル・ミラノだったからマーケットが閉じる8月31日の目玉商品となったに過ぎない。インテルは本命視されていたロドリゴ・パラシオ(ジェノア)の獲得に要する1000万ユーロ(約12億円)を出し渋り、ラツィオで構想外となったサラテを買い取りオプション付きのレンタルで手に入れたのだ。
 インテルだけではない。同じ最終日にアントニオ・ノチェリーノをメンバーに加えたACミランにしても、パレルモに支払った移籍金は僅かに100万ユーロ(約1億2000万円)。リカルド・フェレイラという若手の共同保有権を見返りに含めたとはいえ、こんな小さな移籍をあたかもビッグディールのごとく仕立て上げなければ、今のイタリアはニュースにも事欠く始末なのである。
 ヨーロッパのプロビンチャに成り下がろうとしているのが、今のイタリアだ。そんな現実を目の前に突き付けられてもなお、それを認めようとする勇気は誰にもない。・・・(略)・・・。ラツィオなどはミロスラフ・クローゼとジブリル・シセという、失礼千万を承知で言えば使い古しの戦力を嬉々として譲り受けている。前途洋々のタレントを引き抜くのではなく、終わりを迎えようとしているベテランの受け皿となっているのだ。
 望ましい強化とは、いわゆる中庸だろう。大金を使ったら使ったで、使い過ぎだと非難されるか、商売下手だと嘲笑される。節約したらしたで、競争力を落としたと非難を浴びる。イタリアの特に有力クラブは、そのどちらか、つまり極端な道だけを歩んできた。しかし、進むべき道はその中間にある。両極端になっていたのは、中間を求めて来なかったからに他ならない。
 支出を妥当なレベルに抑えながら、チームを着実に強化する。その道を作り出したのがドイツだろう。ブンデスリーガの各クラブは“新ドイツ人”、つまり移民2世を戦力の新たな供給源として、育成する仕組みを積極的に築き上げた。そうした新たな試みが、ドイツ・サッカーの底上げと経済的な繁栄をもたらしたのだ。
 今のところドイツ勢が国際舞台で大きな勝利を掴むまでには至っていないが、満員のスタジアムと健全な財政、そして中堅クラブ層の充実がUEFAカントリーランキングの上昇をもたらしたのは間違いない。追い越されたのが、他でもないイタリアだ。

大物の獲得がほぼなかった 理由は“金欠”だけではない
【バルセロナとレアル・マドリーというスペインの2強は勿論、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、マンチェスター・シティと比べても、バイエルン・ミュンヘンやボルシア・ドルトムントは未だその域に達していない。しかし、ドイツ・サッカーがサステイナブル(持続可能)なシステムとメカニズムを確立したのは明らかだ。
 その一方でイタリアは、今なお“古き良き時代”の思い出にすがるばかりで、勇気を持てずにいる。現実を直視してそれを受け入れ、ドイツと同様の道を歩み始める勇気をダ。
 何故、第一歩を踏み出す勇気を持てないかといえば、こうした改革には速効性が無いからなのだ。長い目で事を運ばなければならず、収穫が得られるまではコストだけが上昇する。それはそうだが、本当にこのままで良いのだろうか。手をこまねいていれば、状況は更に悪化して行くだけだ。
 最高に優秀な選手達を国外に売却すれば、カンピオナートのレベルは下がる。売却せずに引き止めれば、高額の年俸がクラブの財政を圧迫することになる。こうしたジレンマがイタリアの多くのクラブを苦しめる中、良好な経営状態を保っているのがウディネーゼのような「発掘・育成・売却」型のプロビンチャーレだ。『カゼッタ・デッロ・スポルト』紙によれば、今夏の移籍金収支は5600万ユーロ(約67億円)の黒字となっている。バルセロナにアレクシス・サンチェスを、ナポリにギョクハン・インラーを、ビジャレアルにクリスティアン・サパタを売り、大きな利益を上げたのだ。
 こうした主力売却のダメージはやはり小さくなく、出場権を得たCLはプレーオフでの敗退となった。とはいえウディネーゼは勝利を義務付けられたクラブではなく、それなりの結果を残していればティフォージも満足する。・・・(略)・・・。
 CLへの出場がノルマとなるミランやインテルは、勿論事情が異なっている。UEFAが導入したファイナンシャル・フェアプレー(FFP)の基準を満たせなければ、CLに出場できなくなる。財政の健全化を図らなければならないのは、それゆえダ。
「収入以上の支出をご法度」とするFFPのルールに照らせば、バルセロナ、マンチェスター・U、マンチェスター・Cは軒並みアウトとなる。ちなみに、R・マドリーがセーフとなるのは興味深い事実だ。
 バルセロナが胸スポンサーを解禁し、年間4000万ユーロ(約48億円)をオファーしてきたカタール財団にその“聖域”を明け渡そうとしているのも、FFP導入の影響ダ。・・・(略)・・・。
 マスコミがセリエA参入を盛んに煽り立てたビッグネームは、セスク・ファブレガスも、サミア・ナスリも、カルロス・テベスも、セルヒオ・アグエロも、誰ひとりとしてやって来なかった。4000万ユーロ(約48億円)規模の額をメルカートに投じる余裕は、イタリアのどのクラブにもないからだ。それどころかインテルは、ロシアのアンジ・マハチカラからのマネーの誘惑に負け、最も重要な戦力のサミュエル・エトーを手放した。
 イタリア勢の大物獲得がほぼなかったのは、金欠だけが理由ではない。セリエAが魅力を無くした影響は大きいだろう。象徴的なのがユベントスだ。昨シーズンはELに出場しながらグループステージで敗退し、しかも欧州カップへの出場権すら逃している。
 昨夏のジョゼ・モウリーニョ監督に続き、今夏はエトーを失い、理由はともあれモチベーションを無くしたように見えるヴェスレイ・スナイデルをやむを得ず陣容に残すことになったインテルも、戦力値は下降線を描きつつあるだろう。ミランのアドリアーノ・ガッリアーニ副会長は、こう言った。
「目標はCLで昨シーズンよりも良い結果を残すことだ」
 昨シーズンは決勝トーナメント1回戦で負けている。つまり、目標はベスト16以上だと公言したわけだ。優勝とは口が裂けても言えなかったのだろう。ワールドクラスのトッププレーヤーがイタリアを新天地に選ぶ理由は、もはや存在しないと言っても過言ではない。】 《この項・了》



《ワールドサッカーダイジェスト:2011.10.6号_No.348_記事》
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PORTUGAL ポルトガル人監督がブームに!? [THE JOURNALISTC]

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リーガ・ゾン・サグレス  《ヌーノ・ルス記者》
ポルトからチェルシーに引き抜かれたヴィラス・ボアスを初め、近年はポルトガル国内から若くて有能な指揮官が台頭するようになっている。「ポルトガル人監督ブーム」の切っ掛けとなった“革命”とは、何だったのか。

“ブーム”の火付け役は 言うまでもなくあの名将だ
ポルトガル人監督が今、サッカー界でブームになっている。その火付け役が、ジョゼ・モウリーニョなのは言うまでもないだろう。彼の強烈なパーソナリティーと革新的なトレーニングメソッドは大きな注目を集め、FCポルト、チェルシー、インテル・ミラノで残した実績は華々しいモノだった。そんな名将に続けとばかりに、近年はポルトガル国内から若くて有能な指揮官が台頭するようになったのだ。
 今シーズンのポルトガル・リーグでは、オリャネンセのダウト・ファキラ(モザンビーク国籍)を除く15人の監督全てがポルトガル人だ。昨シーズンのチャンピオンズ・リーグ(以下CL)とヨーロッパリーグ(以下EL)の準決勝に勝ち残った8チームのうち、その半数を率いていたのがポルトガル人監督だった。名前を挙げれば、レアル・マドリーのモウリーニョ、ポルトのアンドレ・ヴィラス・ボアス、ベンフィカ・リスボンのジョルジ・ジェスス、ブラガのドミンゴス・パシエンシアである。いずれもブームを裏付けるファクターと言えるのではないか。
「モウリーニョ以前」にも勿論、世界を舞台に活躍したポルトガル人監督はいた。そのひとりが、カルロス・ケイロス(現イラン監督)だろう。
 1989年と91年にワールドユース(現在のUー20ワールドカップ)を2大会続けて制すと、マンチェスター・ユナイテッドで計5年間(02〜03年、04〜08年)アレックス・ファーガソン監督の右腕を務め、数多くのタイトルをもたらした。91〜93年、08〜10年に指揮したポルトガル代表ではいずれも結果を残せなかったが、ケイロスが脚光を浴びた時代は確かにアッタ。
 モウリーニョが監督としてキャリアを歩み始めた頃、エジプトに新天地を求めたマヌエル・ジョゼは。後にアフリカのサッカー界に偉大な足跡を残すことになる。アル・アハリを率いてリーグ優勝6回(04ー05シーズンから5連覇と10ー11シーズン)、アフリカ・チャンピオンズ・リーグ制覇4回(01年、05年、06年、08年)。更に、06年クラブワールドカップでの3位など申し分のない実績を残したのだ。
 とはいえ、衝撃的だったのはやはり、ポルト時代のモウリーニョだろう。実質2年目の02ー03シーズンにUEFAカップ、ポルトガル・リーグ、国内カップで優勝して3冠の偉業を成し遂げると、その翌シーズンにはなんと国内リーグに加えてCLも制覇。2年という短いスパン、しかも最高とは言えない戦力でヨーロッパ・カップ戦の“二階級制覇”をやってのけたのだ。
 当時のモウリーニョが何より重視したのは、メンタルケア。そこには選手に自信を植え付け、ポテンシャル以上のモノを引き出す狙いがアッタのである。ピッチ上でのトレーニングと同じくらいの時間を掛けて、対話を重ねながら一人ひとりの精神状態をチェック。ネガティブな雰囲気を察知すれば、様々な方法でソノ選手のモチベーションを高めた。
 ポルトにスカウティングの概念を取り入れたのも、モウリーニョだ。対戦チームの監督や戦術からレフェリーの癖まで丹念に調べ上げ、全てを丸裸にする。兎に角ディテールにこだわる彼のやり方は、当時のクラブ関係者に言わせれば「一大革命」だった。

新世代の指揮官の多くが 何らかの形でポルトと...
ヴィラス・ボアスの後任としてポルトを率いるのは、同じポルトガル人のペレイラだ。国内リーグでは開幕2連勝と最高のスタートを切っている。
ポルトの大躍進とともに、スカウティングを含めたモウリーニョのトレーニングメソッドがポルトガルで注目されたのは当然だった。やがてスモールクラブさえもディテールにこだわりを持ち始め、徹底した準備をして試合に臨むようになったのだ。
 昨シーズンのブラガは、CLの予選で戦ったセルティック・グラスゴーとセビージャ、ELの決勝トーナメント2回戦(ベスト16)で激突したリバプールを、丸裸にしていたという。EL準優勝という快挙は、完璧な下準備がもたらした結果だったのだ。ファイナリストと言えば、昨シーズンのリーグカップでは伏兵のパソス・フェレイラが決勝まで勝ち上がった。若き指揮官ルイ・ヴィトーリアがモウリーニョ流を踏襲していたのは、言うまでもない。
 不思議なことに、R・ヴィトーリアを初め現在活躍する監督の多くが、何らかの形でポルトに関わっている。ヴィラス・ボアス(現チェルシー監督)はモウリーニョの下でスカウティングを担当したことがあり、今シーズンからスポルティングを指揮するドミンゴス・パシエンシアは、現役時代に2年ほどポルトでプレーした。この5月にCFRクルージュ(ルーマニア)の監督に就任したジョルジュ・コスタは、モウリーニョ時代にキャプテンを務めた偉大なCBだった。
 更に、先のUー20ワールドカップでポルトガル代表を決勝まで導いたイリディオ・バレは、ポルトの元育成部門部長。現在ポルトを率いるヴィトール・ペレイラは、ヴィラス・ボアスの下でヘッドコーチを担当。今夏からアカデミカで監督業をスタートさせたペドロ・エマヌエルは、選手として前述した二階級制覇に貢献し、昨シーズンはアシスタントコーチを務めている。
 ギリシャ代表監督のフェルナンド・サントスは、ポルトが90年代後半にリーグ5連覇を達成した時のメンバーで、パナシナイコスの監督ジェズアウド・フェレイラは、モウリーニョが去った後のポルトでリーグ4連覇を成し遂げた。その他にも、ベジクタシュ(トルコ)のカルロス・カルバリャル監督、ハーツ(スコットランド)のパウロ・セルジオ監督らが、このポルトガルの名門クラブと繋がっている。
 ポルトは統制の取れた組織で、いわゆる無駄が一切ない。欧州カップ戦の際にクラブを訪れたUEFAの幹部は、その徹底した仕事ぶりを目の当たりにして舌を巻いたという。監督やスタッフは自分の職務に専念するだけでよく、クラブもそのためには情報面や施設面で最大のサポートを約束する。そうした理想的な環境が、「監督育成」に役立っているのかも知れない。
 若くて優秀な監督が揃う今シーズンのポルトガル・リーグ。開幕時点で監督16人の平均年齢は、なんと42歳。50歳を超えているのは、ベンフィカのジェスス(57歳)と、ギマラエスのマヌエル・マシャド(55歳)だけである。
 ポルトガルの各クラブは、これからも経験などは度外視、その将来性に賭けて若い指導者を監督に抜擢することだろう。ポルトでのモウリーニョの偉業が、この国の監督感を大きく変えたのだ。】 《この項・了》


《ワールドサッカーダイジェスト:2011.9.15号_No.347_記事》
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ARGENTINA またしても繰り返された独断専行 [THE JOURNALISTC]

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トルネオ・アペルトゥーラ(前期リーグ) トルネオ・クラウスーラ(後期リーグ)  《ダニエル・アルクッチ記者》
代表の新監督はサベージャに決まった。国内きっての智将がいかにチームを立て直すのかは興味深いが、その一方で、決定に至った過程には非難が集中している。グロンドーナ会長の独断専行は、とどまるところを知らない。

新監督はサベージャに決定 AFAへの不信感は拭えず
グロンドーナ会長の鶴の一声で就任が決まったサベージャ。叩き上げの指導者はいかなる強化策で、この苦難を乗り越えるのだろうか。
【今更何が起きても驚く必要はない。だが、AFA(アルゼンチン・サッカー協会)が正しいことをやってみせるチャンスを活かせなかったのが、残念でならない。セルヒオ・バチスタ監督を解任した後、AFAのフリオ・グロンドーナ会長はまたしても独断で、代表チームの新監督を決定してしまった。かつてダニエル・パサレラ監督時代の代表でコーチを務め、2009年からエストゥディアンテスで監督業をスタートさせた戦術家、アレハンドロ・サベージャである。
 本来なら、どういった手筈を取るべきだったか。非常に単純だ。3人、または4〜5人の候補者を挙げ、各自に代表の強化プランを提出させる。コーチングスタッフのリストアップから始まり、基盤となるフォーメーション、限られた時間の中でチームを築き上げる具体策、国内でプレーする選手と海外でプレーする選手をそれぞれどのように扱うのか、明らかに人材不足と考えられるいくつかのポジション(センターバック、サイドバック、トップ下など)に関するアイデア、更にはユース代表についてのプランに至るまで・・・全てである。
 だが、それらは実現しなかった。我々はアルゼンチンに住んでいる。何ヘクタールもの土地が有り余る一方で、謙虚さと寛容さ、そして計画性が著しく欠如したこの国にだ。
 かくして“ドン・フリオ”の独断専行は繰り返された。ディエゴ・マラドーナやバティスタを代表監督に任命した時と同じように、アルセナルの会長を務める実子フリートにのみ意見を求め、今回、サベージャを新監督に指名したのである。
 私はサベージャの能力に疑問を抱いているわけではない。ただ、専制君主制が敷かれたAFAで代表監督を務め上げるのが容易ならざるミッションであることは、すでに既成事実化している。彼のような有能な指導者であっても力を発揮できないのではないかと、危惧しているのだ。】

オープンな考えの持ち主で 言動はビエルサを彷彿と!?
久々に代表招集を受けたリケルメだが、ベロンと同様、3年後のW杯を見据えた人選ではないのだろう。
【2009年にエストゥディアンテスを率いてコパ・リベルタドーレスで優勝を果たし、南米王者として同年のクラブワールドカップにも参加したサベージャは、ひとつの戦術に執着しない監督ダ。4ー4ー2や3ー4ー2ー1など様々なシステムを使い分け、5ー4ー1という超守備的な戦法を採用することも躊躇(ためら)わない(訳者・注:アルゼンチン国内では守備的な布陣は得てしてファンに酷評されるため、多くの指導者が避けがちとなる)当初は主力選手の怪我や出場停止処分の影響から「仕方なく」取り入れたシステムだったが、やがてこれが効果を上げ、結果に繋がると判断するや、迷うことなく採用し続けたのである。彼の口癖は「人はいつでも改善のために聞く耳を持たねばならない」というもので、独自のアイデアに固執することのナイ、オープンな考えの持ち主だ。
 また、ユニークな言動でも有名。代表監督の就任会見では、キャンプ施設に掲げられているアルゼンチン国旗を指さし、サベージャは次のように話して、その場に居合わせた全ての人々を驚かせている。
「あの国旗は、独立運動を指導したマヌエル・ベルグラーノによって創られた。ベルグラーノは母国のために全てを捧げ、報酬も捨て、貧困のままに命を落とした。彼は我々国民が模範とすべき人物だ。個人的な損得勘定より全体の利益を優先するという教えを残してくれた」
 更にはこんな発言も飛び出した。
1960年にケネディがアメリカ合衆国の大統領に就任した時、『アメリカがあなた達のために何をしてくれるかではなく、あなた達がアメリカのために何をできるのかを考えてください』と言った。これはアルゼンチン代表の現状にも通じている
 的確な言葉を選び、時に沈黙を交える話し方、そして、話し相手をジッと見つめる(またはまるで見向きもしない)様子からは、どこかマルセロ・ビエルサを彷彿とさせる。
「堅実な守備と中盤に破壊力のある攻撃は、全ての監督にとっての理想だ」
 と言い切るサベージャの構想は、今後の招集リストから明らかになって行く。まずは9月に行なわれる4つのテストマッチのために、総勢50名の選手を招集。・・・(略)・・・。
 36歳となったファン・セバスティアン・ベロンの招集は興味を引く。・・・(略)・・・。とはいえ、ほぼ3年ぶりにお呼びのかかったファン・ロマン・リケルメと同様に、2014年のワールドカップを見据えての招集でないことは明らかである。このリストについて、サベージャは次のように説明している。
「代表チームを構成するためには、短期、中期、長期の3つについて考える必要がある。次のワールドカップに出場できなくても、現時点で効果的な役割を果たせるのであれば、そんな選手を除外するわけにはいかない」
( ー 中 略 ー )
 そしてサベージャ新監督は、「神のご加護がありますように」との言葉で会見を締めくくった。まさにその通りだ。チーム強化の決定権を握っているはずのAFAの役員達が頼りにならないと分かった今、アルゼンチン代表が歩むべき道を照らしてくれるのは、もはや神しかイナイのだだから。

誰も想像できなかった現象 「リーベルが2部を変えた」
チャカリータのゴールを猛襲するカベナギ。リーベルの2部開幕戦はテレビ中継が高視聴率を叩き出すなど、全てが規格外の現象の連続となった。
【リーベル・プレートの衝撃の2部降格決定から、早いもので2カ月が経ち、アルゼンチンの国内リーグは新シーズンの開幕を迎えた。
 マティアス・アルメイダ監督が率いる新生リーベルは、初戦のチャカリータ戦を本拠地のモヌメンタルで戦い、見事1ー0の快勝スタート。この日、モヌメンタルは3万5000人という大観衆で埋まり、まるでタイトルの懸かったファイナルのような盛り上がりを見せ、テレビ中継も21㌫という驚異的な視聴率を記録。1部に続いて、今シーズンから2部のテレビ放映権も買い取った国営放送にとっても、最高の滑り出しとなった。
 実際、リーベル対チャカリータ戦は、様々な面において2部の枠組みを超えていた。リーベルの新加入選手であるフェルナンド・カベナギやアレハンドロ・ドミンゲスといったスター選手達が登場し、1968年に1部で優勝を飾ったことがあるチャカリータは人気の高い名門クラブだ。主審を務めたのは、現在国内でナンバーワンとの評判が高い名レフェリー、エクトル・バルダッシ。そして国営放送によってライブ中継された映像は、年に数回しかないハイビジョン放送だった。
 これらから言えることは、「リーベルが2部にカテゴリーを変えられた」のではなく、「リーベルが2部を変えた」という厳然たる事実である。そしてその影響は今後、他の部分でも顕著に表われて行くだろう。
 例えば、2部では過去の暴動事件の影響から、アウェーチームのサポーターはスタジアムに入場できないのが規則となっている。だが、2部でリーベルがアウェーゲームを戦った際、会場となったメンドーサ市のスタジアムに1万5000人ものリーベルファンが押し寄せたため、ホームの対戦相手、インデペンディエンテ・デ・リバダビアの会長は、規則違反を承知でリーベルのサポーター達にチケットを販売せざるを得なかった。これと全く同じ現象が今後、他の会場でも見られるだろう。ましてや今回、メンドーサでスタジアムに入場できたことを知ったリーベルのファンが、全てのアウェー会場に足を運ぶことは間違いなく、どのクラブも2万人近い入場者を門前払いなどできるわけがない。そしてAFAはこの禁則事項の見直しを、早急かつ真剣に検討しなければならないだろう。
 アルメイダ監督は、カベナギやドミンゲスといったお馴染みのスター選手達だけでなく、クラブ育ちの若者にも出場のチャンスを与えている。その2節では17歳のストライカー、ルーカス・オカンポスが先制点を決めて3ー1の勝利に貢献。開幕2連勝を飾ったことでチーム内の雰囲気は良く、アルメイダ監督の「1試合ずつ確実に勝って行きたい」という慎重な態度は好感を与えている。
 奇しくも悲劇的なリーベルの降格によって、2部の注目度と価値は著しく向上した。ほんの2カ月前まで、誰も想像さえ出来なかった現象が今、アルゼンチン・サッカー界で巻き起こっているのだ。】 《この項・了》


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FRANCE 世界に誇るもうひとつのステージ [THE JOURNALISTC]

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リーグ・アン  《フランソワ・ヴェルドネ記者》
あまり陽の当たることのナイ2部リーグだが、今シーズンのリーグ・ドゥは注目に値する。いくつもの名門クラブが名を連ね、ジュリなどのビッグネームが参戦。このカテゴリーでは、ヨーロッパでも最高水準にあるだろう。

リーグ・アンでの優勝歴は 4チーム合計で22回に上る
モナコやRCランスの降格により、今シーズンのリーグ・ドゥにはかつてないほど豪華な顔触れが揃った。
御大ギ・ルーは今でも時々、TV番組に出演し、相変わらずウイットに富んだ言葉でお茶の間を楽しませてくれている。
 リーグ・アンのシンボルでもアッタこの名伯楽が、表舞台を退いたのが今から4年前。今年10月で73歳になるレジェンドは、オセールの監督として894試合で指揮を執ったその豊富な経験から、フランスのフットボールについて莫大な知識を持っている。
 そのルーが先日、あるTV番組の中でこんなことを言っていた。
「おそらく今のリーグ・ドゥ(2部)は、世界一の2部リーグだ」
 この愛すべき爺がこう発言した時には、よく記者仲間達と、「また経験をひけらかして、大袈裟なことを言ってるよ(笑)」とか、「きっとまたシャブリ(訳者・注:オセールの特産品でもある世界的に有名な辛口の白ワイン。ルーの好物として知られる)を飲み過ぎたんだろう(笑)」などと、軽口を叩き合うのだが、しかし、今回の言葉にはナルホドと思わせるモノがあった。
 フランスの2部リーグは、少なくともヨーロッパにおいては最高水準にあると断言できる。トップリーグのリーグ・アンは、リーガ・エスパニョーラやプレミアリーグ、ブンデスリーガ、セリエAの後塵を拝しているが、そのひとつ下のカテゴリーはスポーツ的側面から見ても、あるいは経済的側面から見ても、他の主要国の2部リーグより間違いなく優秀だ。
 特に今シーズンのリーグ・ドゥは、強烈なまでにリーグ・アンの香りを漂わせている。なにしろ、20クラブ中18クラブが過去にリーグ・アンに籍を置いていたことがあり、しかもそのうち4クラブは国内王者に輝いた実績を持っているのだ。FCナントが8回、ASモナコが7回、スタッド・ランスが6回、そしてRCランスが1回と、4チーム合わせて22回の優勝歴を誇るのだから、驚きだ。ファンやメディアの目が例年以上にリーグ・ドゥに向いているのは、当然かも知れない。
 更に今シーズンのリーグ・ドゥは、ヨーロッパの香りさえ漂わす。今でこそ一国の2部リーグというステージに甘んじるが、S・ランスとモナコにバスチアを加えた3チームは、かつて欧州カップ戦のファイナルを戦った輝かしい戦歴を持っているのだ。
( ー 中 略 ー )
 この3チームに、95ー96シーズンのチャンピオンズ・リーグでベスト4入りしたナント、99ー00シーズンのUEFAカップで同じく準決勝まで勝ち進んだRCランスを加えれば、豪勢な5品刺しブロシェット(訳者・注:肉と野菜、あるいは魚介類と野菜を交互に串に刺し、ソースに付け込んで焼き上げる串焼き料理)の出来上がりだ。大皿に美しく盛られたブロシェットは、リーグ・ドゥに血肉を与えるとともに、芳(かぐわ)しい大陸の香りを運んできてくれる。かつてないほど豪華な料理が並ぶ今シーズンのリーグ・ドゥは、きっと舌の肥えたファンも唸らせるだけの美味を堪能させてくれるに違いない。

ビッグネームの相次ぐ参戦 欧州一に輝いたアノ選手も
古巣モナコに復帰したジュリを筆頭に、一時代を築いたベテランが相次いでリーグ・ドゥに参戦。メディアの注目度は一気に上昇した。
実際のところリーグ・ドゥは、他の主要国に比べ、トップリーグとの格差がそれほど大きくはない。リーグ・ドゥ勢がフランス・カップで上位に進出するケースが少なくないことが、何よりの証拠だ。昨シーズンにはアンジェが、同コンペティションでベスト4に食い込む大健闘を見せている。
 ハード面についても、リーグ・アンに大きくは劣っていない。象徴的なのがスタジアムだろう。現在、リーグ・ドゥの各クラブが本拠地として使用しているスタジアムの多くが、リーグ・アンのクラブのそれに引けを取らないほど高い水準にあるのだ。
( ー 中 略 ー )
 最も、ドンナに実力があろうと、そして環境が整っていようと、このステージから抜け出し、天国に昇れるのは3チームのみ。リーグ・アンへと繋がるのは、まさしく狭き門である。
( ー 中 略 ー )
 思わぬ伏兵が出現したり、想定外のサプライズが立て続けに起こるのも、リーグ・ドゥの特徴である。現に今シーズン、リーグ・アンに昇格したエビアン、アジャクシオ、ディジョンの3チームは、いずれも昨シーズンの開幕前には昇格候補にすら挙がっていなかった。・・・(略)・・・。
 今シーズンのリーグ・ドゥが例年以上に話題を集めているのは、ビッグネームが相次いで参戦したからでもある。かつて栄光を手にした男達が、カネや名誉を度外視し、純粋にプレーする喜びを得るために、この戦場に身を投じたのだ。
 EURO2000の優勝メンバーで、元アーセナルのシルバン・ヴィルトールはナントと契約。またリュドビク・ジュリはパリ・サンジェルマンを退団し、降格した古巣モナコに復帰している。バルセロナ時代には欧州王者にも輝いたジュリだが、自身の心のクラブであるモナコのユニホームを再び纏うため、リーグ・ドゥでプレーする決断を下したのだ。ヨーロッパの頂点を極めた男が、新たな挑戦の場として下部リーグを選ぶなど、滅多にアルことではナイ。
 その他にも、ジュリのモナコ時代の盟友であるジェローム・ロテンがバスチアに、16年プレーしたボルドーに別れを告げた元フランス代表GKのウルリク・ラメがスダンに入団。この4人のフランス代表キャップは合計で134を数え、リーグ・アンの出場試合数はトータルで1300を超える。
 こうしたビッグネームの到来で、メディアの注目度は一気に上昇。LFP(リーグ・アンとリーグ・ドゥを統括する機関)が主要株主となって新設された『セーフット』というTV局が、今シーズンからリーグ・ドゥを毎節、ミュルチプレックス形式で放映している。ミュルチプレックス方式とは、元々『カナル・プリュス』(大手ケーブルTV局)が考案したもので、同じ時間帯に行なわれる複数の試合を多元中継する放映形式である。いくつもの試合を順番に中継するのだが、どこかの試合でゴールが決まると合図の音楽が鳴り、画面がその試合に切り替わるといった趣向が凝らされている。
 今回、セーフットで放映されるのはカナル・プリュスのそれとは細部が異なるものの、複数の試合を多元中継するという点では同じ。・・・(略)・・・。つまり、毎節全ての試合がTV中継されるわけだ。
 そのお陰でリーグ・ドゥの各クラブは、9000万ユーロ(約108億円)ものTV放映権料から分配金を受け取ることができる。下部リーグのクラブにこれほどの大金がもたらされるのは、フランスくらいのモノだろう。
( ー 以下 略 ー )】

リーグ・ドゥの若者達に 周辺諸国からも手が伸びる
【リーグ・ドゥのレベルの高さは、リクルーティングからも見て取れるだろう。近年、リーグ・アンのクラブは以前にも増して、リーグ・ドゥでプレーする有望な若手の発掘に熱心になっている。世界規模の経済不況がその背景にあるのは間違いないが、それでも獲得するに値するタレントがいなければ、リーグ・アンのクラブが目を向けるはずがない。
 つい最近までビッグネーム獲りに執心していたリヨンでさえ、今ではこの流れに(あらが)えず、今夏の移籍市場ではギャンガンのDFバカリ・コネを200万ユーロ(約2億4000万円)で手に入れている。苦しい財政事情もあり、リヨンにとってはこの23歳のブルキナファソ代表が、これまでのところ唯一の新規加入選手である。
( ー 中 略 ー )
 リーグ・ドゥで台頭する若手有望株に手を伸ばしているのは、リーグ・アンのクラブだけではない。国外のクラブにとっても魅力的に映るようで、実際、昨シーズンにディジョンでリーグ・ドゥ得点王に輝いたセバスティアン・リバスはイタリアのジェノアに引き抜かれ、イストルの右サイドバック、フロリアン・ルジュンはスペインのビジャレアルへと旅立った。
 過去を振り返れば、リーグ・ドゥからは何人ものスター選手が生まれている。ディディエ・ドログバ然り、エマヌエル・アデバヨール然りだ。・・・(略)・・・。
 こうして巣立って行った若きタレントと入れ替わるように、また新たにハングリー精神旺盛な若武者が、リーグ・ドゥの舞台で活躍の場を得ることになる。そして、そのうちの何人かが頭角を現わし、先人達と同様にステップアップを遂げるのだ。
 現に今シーズンのリーグ・ドゥには、来夏の、あるいは早ければ冬の移籍市場で、リーグ・アンや国外のクラブに引き抜かれそうな有望株がひしめいている。ル・アーブルのFWライアン・メンデス(21歳)、メスのGKヨリス・デル(21歳)、スダンのDFウェスレイ・ロトア(24歳)、モナコのFWエドガル・サリ(19歳)、クレルモン・フットのMFロマン・アレッサンドリニ(22歳)、アミアンのFWヨアン・トゥズガール(24歳)...。彼らはきっと近い将来、より大きな舞台へと羽ばたいて行くことだろう。
 同じようなことが監督についても言える。リーグ・ドゥは、特に駆け出しの指導者にとっては格好の腕試しの場であり、修練を積む場でもある。リーグ・アン昇格、あるいはリーグ・ドゥ残留を巡る熾烈な争いのなかで、己の哲学を構築したり、考えを発展させたりして、指導者として日々成長して行くのだ。そして、彼らはいつの日か、リーグ・アンで采配を振るうのを夢見ているのである。
 近年の最も顕著な成功例がリュディ・ガルシアだろう。昨シーズンのリーグ・アンでリールを優勝に導いた47歳の指揮官は、02年夏から5年間、リーグ・ドゥのディジョンで監督としての実績を積み、07年夏に当時リーグ・アンのル・マンにヘッドハンティングされた経歴を持つ。・・・(略)・・・。
 スタジアムに足を運ぶファンの数は、イングランドやドイツの2部リーグほど多くはないかも知れない。しかし、力が拮抗したチーム同士によるエキサイティングな試合、プレーのクオリティーの高さ、若手が育ち易い土壌など、リーグとしての魅力やレベルの高さは他を凌駕する。財政的な信頼性もまた、他国を上回るだろう。
 冒頭のギ・ルーの言葉は、見当違いどころか、まさしくご明察。間もなく73歳となる御大の目に、まだ狂いはないようだ。】 《この項・了》
◇あらが・う あらがふ 3 【▽抗う/▽争う/▼諍う】
⑴さからう。抵抗する。
「権力に—・う」
⑵相手の言うことを否定して言い争う。

抗えない
読み方:あらがえない
抗うことができない、逆らえない、抵抗できない、従わざるをえない、といった意味の表現。


《ワールドサッカーダイジェスト:2011.9.15号_No.347_記事》
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GERMANY スペイン人の度肝を抜いて欲しい [THE JOURNALISTC]

[サッカー][目] [耳]  [手(グー)]
ブンデスリーガ  《ルドガー・シュルツェ記者》
8月10日の親善試合でブラジルに勝利したドイツ。その試合で際立った活躍を見せたのが、19歳のゲッツェだった。いずれ司令塔エジルとともに攻撃陣を牽引し、テクニカルなサッカーで王者スペインの度肝を抜いて欲しい。

テクニックで“本家”を凌駕 敵将も認める完勝劇で...
苦手としていたブラジルに3ー2の勝利を収めたドイツ。特筆すべきは、その内容だろう。テクニカルな面で見事に“本家”を凌駕した。
【ドイツ代表がブラジルに最後に勝利を収めたのは、今から18年前のことだった。地元ケルンでの試合波、冬の寒さが身に染みる11月17日に行なわれ、ギド・ブッフバルトとアンドレアス・メラーのゴールで、ドイツは2ー1の勝利をもぎ取った。
 凍てつくような寒さに不慣れなブラジルの選手にとっては、モチベーションが高まらないフレンドリーマッチであり、おそらくは“たまたま負けた”程度の気持ちしか残らなかったに違いない。1963年5月5日の初対戦から、ブラジルはドイツを12勝5分け3敗と文字通り圧倒しており、一度の敗戦、しかも悪条件の中での黒星に、さほど大きなショックは感じていないようだった。
 2011年8月10日、コンフェデレーションズカップ準決勝以来、実に6年ぶりとなる両者の対決が実現した。陸上トラックだったスペースが観客席に改装され、サッカー専用へと生まれ変わったシュツットガルトのスタジアムに足を踏み入れたセレソンは、昼間から真夏の太陽の日差しを一杯に浴びたことで、試合へのモチベーションが高まったのか、テクニック溢れるいつもの“フッチボウ”を見せてやろうと意気込んでいた。相性のいいドイツが相手だ、負けるわけはないと、そんなふうに思っていたかも知れない。
 しかし、90分が過ぎ、終了のホイッスルが鳴り響いた瞬間、彼らの表情は「こんなはずじゃなかった」、「一体どういうことだ」と驚きを含んだものに変わり、誰もが特大のショックを受けていた。6年ぶりの対戦でドイツは、王国ブラジルを3ー2のスコアで蹴散らしたのである。
 特筆すべきは、その内容だろう。これまで目にしてきたドイツ代表とは異なる、まるで数年先を行く未来のチームを見ているような魅惑のサッカーで、誇り高きセレソンの自尊心を木っ端微塵に砕いたのだ。この日の試合は、ドイツ・サッカーにとって、ひとつの分岐点となるかも知れない。来年、あるいは3年後、メジャータイトルを獲得した際にこう語られるのだ。「スペインを倒して優勝したこのチームは、あのブラジル戦で誕生した」と。それほど強烈なインパクトを残した一戦だった。
 試合後の記者会見、ブラジルのマノ・メネゼス監督が発したコメントが、全てを物語る。
「私が監督に就任してから1年、ブラジルをこれほど圧倒したチームは他になかった。90分間、我々はずっと押されっぱなしで、ドイツは数多くの得点チャンスを作った。(運が悪ければ)ブラジルは大差で負けていたかも知れない」
 外交辞令などではないだろう。彼はドイツ戦を的確に分析して、そう話したのだ。ブラジルとの21回目の対戦は、こうしてドイツの完勝に終わったのだった。
 では、どうしてドイツは、過去に例がないほどブラジルを圧倒できたのか。ドイツが伝統的な美徳であるパワー、スタミナ、フィジカル、ヘディングの強さをいつも以上に発揮したからか。そうではない。何より際立っていたのは、個々の技術だった。ドイツはドリブル、コンビネーション、ボールキープ、フェイントといったテクニカルな面において、“本家”を凌駕してみせたのである。

ベッケンバウアーを超える 可能性を秘めて超逸材だ
ブラジル戦で特大のインパクトを残したのが、ゲッツェ。周囲の過剰な称賛に浮かれる様子はなく、そうした人間性も評価出来る。
ドイツ・サッカー界全体でユース選手のエリート教育を本格的に始めてから、およそ10年が経過した現在、各地方に設置されたトレセンや各クラブチームの寄宿舎から、次々と才能溢れる若手が生まれている。まるで宝の山から、黄金の泉がこんこんと湧き出るように。技術・体力・アイデア・利他的なメンタリティーなど、一流のサッカー選手に求められる要素が、優れた教育制度によって磨かれているのだ。そして、この積み重ねの成果が、2006年ワールドカップと10年ワールドカップの3位であり、EURO2008の準優勝だった。
 苦手としていた強国との対戦でも、最近はコンスタントに結果を残している。ひとつの切っ掛けは、09年Uー21欧州選手権の優勝メンバー(メスト・エジル、マヌエル・ノイアー、サミ・ケディラ、ジェローム・ボアテング)がA代表に入り、主力に定着したことだ。南アフリカ・ワールドカップでイングランドを4ー1、アルゼンチンを4ー0の大勝で葬り去ったのは、記憶に新しいところだろう。更にワールドカップ以降も、マリオ・ゲッツェ、アンドレ・シュールレら次世代の若手が次々に台頭。そして、ブラジル戦の勝利に繋がったというわけだ。
 ブラジル戦は、ドイツのクオリティーが更に高まった事実を確認できた一戦だったが、その試合で大きな役割を果たしたのが19歳のゲッツェだった。昨年11月10日、ボルシア・ドルトムントのチームメイトであるマッツ・フンメルス、マルセル・シュメルツァーとともに初めてA代表に招集され、11月17日のスウェーデン戦で78分からピッチに立ったゲッツェ。18歳という若さでの代表デビューは、ドイツ史上二人目という快挙だった。そして、7キャップ目となった先日のブラジル戦で初めてスタメン出場を果たし、初ゴールまで決めてみせたのだ。
 ゲッツェのプレーは、まさにセンセーションと表現出来るモノだった。翌日、各メディアの採点は軒並み高得点で、MVPも独占。それほどブラジル戦の彼は抜きん出ていた。★瞬時の判断は全ての局面において的確で、抜群の敏捷性と卓越した足元のテクニックは、他を寄せ付けないレベルにあり、身長1㍍76㌢と小柄ながら当たり負けもしない。パスは常に正確で、またスピードに乗ったドリブルは、文字通り無敵だった。★
 VfLヴォルフスブルクのフェリックス・マガト監督は、ゲッツェを「100年にひとりの天才」と絶賛するが、大袈裟な表現では決してない。皇帝フランツ・ベッケンバウアー以上の選手になる可能性を、秘めた逸材である。
「それでも、リオネル・メッシには及ばないだろう」
 そんな評価にも、今なら自信を持って反論出来る。特筆したいのは、メッシにない武器を持っているという点だ。それは、自己犠牲の精神。常にチームプレーヤーとして振る舞えるゲッツェは、献身的に守備に身を捧げられる選手だ。対してメッシは、攻撃に意識が偏り過ぎる嫌いがあり、起用法を誤ればチームの機能性を著しく低下させかねない。柔軟性という点では、ゲッツェに分があるはずだ。
 試合後、メディアの多くがゲッツェを持ち上げた。それこそ最上級の持て囃し方で。この業界の、悪弊のひとつだろう。過剰な称賛は、若手の才能を潰してしまう危険をはらんでいるからだ。こうした状況の中で選手に求められるのは、冷静な対応であり、周囲に惑わされない平常心だが、人生経験の少ない若者には難しい注文だろう。
 だが、ゲッツェに限って言えば、そうした心配は無用だ。わざとらしいお世辞を真に受けて、図に乗るタイプでは決してなく、彼はどれだけ持ち上げられても冷静に、落ち着き払った対応を見せたのである。

司令塔エジルとゲッツェの 共存は十分に可能である
エジルとゲッツェの共存は可能だと、シュルツェ氏は語る。連携を深め、ドイツをさらなる高みに導けるか。
次から次へと生まれる新たな才能を前に、最も頭を悩ませているのはヨアヒム・レーブ監督だろう。嬉しい悲鳴である。
 現代表チームでポジションを約束されているのは、次の3人。GKのノイアー、サイドバックでキャプテンのフィリップ・ラーム、そして守備的MFのバスティアン・シュバインシュタイガーだ。この3人以外のポジションに誰を起用するかが、難しい。・・・(略)・・・。
 MFはどうだろう。昨年のワールドカップでは、シュバインシュタイガーとケディラがダブるボランチを形成。あと3〜4年はこのコンビに託すことになるだろうと思われたが、シモン・ロルフェスが着実に信頼を勝ち取り、またトニ・クロース、スベン・ベンダー、イルカイ・ギュンドガンら若手の成長が目覚ましく、ケディラの地位も決して安泰とは言えない状況だ。
 そして、最も熾烈な争いが繰り広げられているのが、2列目のポジション。他国の指揮官が羨むほどに多士済々のタレントが揃う。トーマス・ミュラー、エジル、ルーカス・ポドルスキのワールドクラス・トリオは、既にお馴染みだろう。更には前述のゲッツェと、そのゲッツェとともにブラジル戦でゴールを挙げたシュールレの両雄がレギュラーポジションに急接近中で、他にもマルコ・ロイス、ケビン・グロスクロイツ、ルイス・ホルトビーら23歳以下の若手達が、虎視眈々と定位置奪取を狙っている。
( ー 中 略 ー )
 この数年でドイツのクオリティーは格段にアップし、しかも現在進行形で上昇を続けている。ビッグトーナメントで準優勝や3位に終わるチームでは、もはや無い。目指すゴールは、ハッキリしている。EURO2008と10年ワールドカップでいずれも0ー1の敗退を喫している両大会の王者スペインを打ち破り、頂点を極めることだ。レーブはきっぱり言い切る。
「スペインにリベンジするために、我々は仕事をしている。実現するかどうか、是非注目してもらいたい」
 ドイツとスペインの試合で、勝敗の行方を左右するのは中盤の出来だろう。いかにクリエーティブに、調和を持ってプレー出来るかがポイントだ。スペインは、シャビとイニエスタが中心的な役割を担うだろう。対するドイツは、エジルとゲッツェがキーマンだ。バルセロナでも共にプレーする二人を相手に、イニシアチブを握れるか。
 エジルが不在だったブラジル戦は、ゲッツェがトップ下を任された。だが、この19歳の攻撃的MFは、サイドでのプレーもお手の物。共存は十分に可能である。世界に誇れる二人のテクニシャンが連係を深め、中盤を支配出来るようになれば、ドイツはワンランクもツーランクも上のチームに進化する。その時が本当の勝負。スペイン人の度肝を、抜いて欲しい。】 《この項・了》


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SPAIN 踏み外してはならない原則がある [THE JOURNALISTC]

[サッカー][目] [耳]  [手(チョキ)]
リーガ・エスパニョーラ  《ヘスス・スアレス記者》
選手組合が給料未払いの問題解決を訴え、ストライキを断行。リーガの開幕が1週間遅れる危機的事態となった。倒産法を適用し、給料の未払いを正当化してきたクラブのオーナーは、「選手ありき」の原則を思い出すべきだ。

どんぶり勘定の皺寄せを 選手たちに強いているだけ
8月20日のリーガ・エスパニョーラの開幕を前に、AFE(スペイン・プロサッカー選手組合)がLFP(スペイン・プロリーグ機構)に対し、給料未払い問題の解決を訴え、ストライキに突入した。
 ストを決める会合には、レアル・マドリーのイケル・カシージャス、バルセロナのカルレス・プジョール、アスレティック・ビルバオのフェルナンド・ジョレンテなど、各クラブのキャプテンがこぞって参加。最悪の場合、開幕が数週間遅れるかも知れないという、危機的な事態に陥っている(編集部・注:8月25日に新協定が結ばれ、リーガは1週間遅れで開幕した)。
 選手が試合の延期を盾にストライキに出るというのは、決して穏やかな話ではないが、しかし、未払い分の給料の総額は4000万ユーロ(約48億円)を軽く超えており、200人以上の選手が被害に遭っていると言われている。これはもはや、看過できない状況と言えるだろう。
 こうした事態を招いた原因は、1部、2部の数クラブが倒産法(倒産を申し立て、裁判所の管理下に運営を委ねる)を“悪用”したことにアル。
 クラブは、負債を抱えて選手への給料が支払えない状態になった場合、二つ下のカテゴリーに降格することが、RFEF(スペイン・サッカー連盟)の規約条項によって定められている。だが、倒産法を適用すれば、給料の支払い義務が50㌫免除され、なおかつ降格処分になることもない。
 今ではサラゴサ、ベティス、グラナダ、マジョルカ、ラシン・サンタンデール、ラージョ・バジェカーノ、コルドバ、シェレスなど、計21のクラブが倒産法を適用しているが、クラブ側が経営の立て直しを理由に給料の未払いを正当化してしまえば、割を食うのは選手たちだ。彼らが怒りを露にするのは当然だろう。
 不況の中にあっても、クラブの収入が極端に落ちたというわけではない。一時期のような莫大なテレビ放映権料こそ見込めずとも、1部のクラブであれば、それなりの額の予算は組めるはずで、全てはどんぶり勘定による経営の皺寄せを、選手に強いているに過ぎないのだ。
「選手に給料を払えないようなクラブは、プロフェッショナルではない。無条件で降格させるべきだろう」
 ビジャレアルのフェルナンド・ロイグ会長は勇敢にもそう述べているが、私も彼の意見に強く同意する。倒産法はクラブを一時的に助けるかも知れないが、選手を苦しめ、長い目で見れば、プロフットボールそのものを追い込む危険性を持っている。
 今更ながら、このような杜撰な金銭感覚で各オーナーたちがクラブを運営していたのかと思うと、ひとりのスペイン人として非常に情けない気持ちになる。世界的な不況により経営状態が悪化していたとはいえ、数カ月に渡る給料未払いが日常化するなど、ブンデスリーガやプレミアリーグでは絶対にあり得ないだろう。このような状況で、よくも「世界最高峰リーグ」などと胸を張って来たものである。
 フットボールは選手ありきのスポーツ。その原則は、何がアッテも決して踏み外してはならないのだ。
計7回の徹底交渉の末、8月25日に合意。AFEとLFPはともに今回の新協定について、「非常に満足のいく内容」と評価している。

「やり過ごしたい試合」が 現場側の本音だったはずだ
選手のコンディションが整っていない、シーズン開幕直前の代表戦に、「強化」の意味合いはまるで見出せない。
【8月10日、ビセンテ・デル・ボスケ監督率いるスペイン代表は、バーリでイタリア代表と強化試合を行ない、1ー2で敗れた。結果のみならず内容のうえでも、明らかにホームチームが上回っていた。
 チェーザレ・プランデッリ監督は、どうやら「勝利するためにいいプレーを」という、正しい認識を持った監督のようだ。その采配には非常に好感が持てた。私の基準に照らし合わせれば、「勝ちさえすれば内容などどうでもいい」とする凡夫ファビオ・カペッロ(現イングランド代表監督)の、対極に位置する指揮官と言っていい。
 象徴的だったのは、GKのジャンルイジ・ブッフォンが、丁寧なフィードで最終ラインからビルドアップをしようとしていたシーン。「マイボールを大切にしよう」という選手たちの意図が、しっかり読み取れた。
 更に素晴らしかったのは、イタリアの心臓部とも言える司令塔のアンドレア・ピルロだ。32歳になった今も、試合をオーガナイズする力は全く衰えておらず、このベテランMFは今も世界屈指のレベルにあることを証明した。また、トップ下で起用されたリッカルド・モントリーボも技術力の高さを証明し、11分にはGKカシージャスの頭上を抜く見事なループシュートで先制点をマークしている。
 アントニオ・カッサーノとジュゼッペ・ロッシの2トップも冴えていた。2人は盛んに中盤からボールを引き出し、スペインの守備陣を大いに苦しめた。優れたボールプレーヤーたちが攻撃を有機的に活性化させたいタリアは、まるで好調時のスペインを見ているかのようだった。
 一方のスペインは、精神的支柱であるカルレス・プジョールが怪我で欠場。更に司令塔のシャビを欠いたことも戦力低下につながった。トップ下に入ったダビド・シルバと後半から登場したダビド・ビジャの2人は随所で好プレーを見せたが、多くの選手はプレシーズンの疲れを引きずり、心身のコンディションを欠いていた。
 唯一の収穫と言えば、バルサ・カンテラが輩出した若き俊才、チアゴ・アルカンタラがA代表デビューを飾ったことくらいだろうか。目立った活躍は見せられなかったものの、今夏スペインUー21代表のヨーロッパ制覇に大きく貢献した男が、クラブに続いて代表でも正式に“トップチーム”への昇格を果たし、記念すべき第一歩を刻んだことを、ここに特記しておきたい。
 イタリアに敗れたことについては好ましいとは言えないが、指揮官のデル・ボスケと選手たちを糾弾するのは行き過ぎだろう。そもそも、8月10日というリーガの開幕直前のタイミングで選手を招集し、試合をするということに無理がある。しかも今年は、14日と17日にバルサとマドリーによるスペイン・スーペルコパも予定されていたのだ。FIFA主導の利権主義が透けて見え、“強化試合”としてはまるで成立していない。真剣勝負ではないだけに、現場側の本音は、「やり過ごした試合」だったはずだ。
全体的に悪くはなかった
 そう渋面で語るしかなかったデル・ボスケに、私は同情している。

児戯にも等しい軍略で 勝機を逃したマドリー
モウ・マドリーの破壊的フットボールは今シーズンも不変。パスの名手シャビ・アロンソもラフタックルの使い手に成り下がり...。
【さて、この原稿はスーペルコパの第1レグが終了した時点で書いているが、スペイン国内ではマドリーのジョゼ・モウリーニョ監督に対する評価が急上昇している。
 ヨーロッパ王者のバルセロナをボールポゼッションで上回るなど、互角以上の戦いを見せたからだ(第1レグの結果は2ー2ーのドロー)。
 だが私は、残念ながらモウリーニョの采配に喝采を送る気にはなれない。モウリーニョのプレーコンセプトは、昨シーズンと全く同じだった。
 このポルトガル人指揮官は、世界中から集めた一流プレーヤーたちを“死兵”として扱っているだけ。つまり、死に物狂いでスペースを消し、ボール保持者を力づくで「襲わせている」だけなのだ。
 とりわけ、ダニエウ・アウベスに対するペペのラフタックルには、レッドカードが出ても可笑しくなかった。ペペはもはや、“柄の悪い用心棒”にしか見えない。更に悲しくなったのは、シャビ・アロンソまでもが指揮官に洗脳され、何の躊躇(ためら)いもなく汚いディフェンスを見せていたことだ。彼の目つきや顔つきまでが変わってしまったように見えたのは、おそらく私だけではなかっただろう。
「それでも、第1レグでマドリーがバルサを追い詰めたのは事実であり、それはモウリーニョの計略が成功したからだったと言っていいはずだ」
 そうした浅はかな考えの読者が、ここにはイナイと私は信じたい。マドリーが優位に戦えたのは、バルサの選手たちのコンディションが悪過ぎたからで、むしろモウ・マドリーは、児戯にも等しい軍略で、みすみす勝機を逃していたのである。
 もし、モウリーニョがメスト・エジルにもっと自由を与え、サミ・ケディラではなくカカを先発で起用していれば、バルサ守備陣はたちまち混乱し、前半のウチに崩壊していたに違いない。しかし、モウリーニョはそのことに気付くことすら出来なかった。あれほどコンディション不十分の相手チームを目の当たりにしていながら、攻撃的な戦い方にシフトできなかったのは、昨シーズンのクラシコで0ー5の大敗を喫したトラウマが、今も残っているからだろう。とどの詰まり、彼は臆病風に吹かれたのだ。
 この原稿が皆さんの手元に届く頃には、既に第2レグの結果も出ているが、おそらくモウリーニョはこの試合でも何一つ戦い方を変えて来ない。これは断言してもいい(編集部・注:スペイン・スーペルコパ第2レグはバルサが3ー2で勝利。トータルスコア5ー4でバルサが戴冠)
 最後に、低調なパフォーマンスに終始したバルサだが、主力不在のプレシーズンを過ごしたのだから仕方ない。リオネル・メッシ、ハビエル・マスチェラーノ、D・アウベス、アドリアーノ、アレクシス・サンチェスは、コパ・アメリカに参戦した影響で合流が遅れ、シャビはアキレス腱の痛みが癒えず、プジョールも膝の故障が慢性化しつつある。更にジェラール・ピケやセルヒオ・ブスケッツも前述のイタリア戦で故障を負っていた。
 しかし、ジョセップ・グアルディオラ監督はその間も時間を無駄にはせず、チアゴ・アルカンタラのような若いタレントを活用しながら、選手層の底上げを図っている。バルサは今、更に強くなるための“変身の途中”にあると言えるだろう。
 もしかすると、開幕直後の数試合では、無様な姿を露呈するかも知れない。だが変身後はきっと、誰も寄せ付けない強さを身に付け、神々(こうごう)しい美しさを放つことになると、私はそう確信している。】 《この項・了》
◇こうごうし・い かうがう— 【神神しい】
〔「かむがむし」の転〕おごそかで、気高い感じがする。神秘的で尊い。
「—・い神社のたたずまい」


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ITALY 戦術的なチャレンジがなければ... [THE JOURNALISTC]

[サッカー][目] [耳]  [手(グー)]
セリエA(アー)  《ジャンカルロ・パドバン記者》
セリエA20チームの布陣で大半を占めているのが、4バックのシステムだ。4DF+3MFが主流という時代の流れが物語るのは、実験的な挑戦の減少傾向。戦術的なチャレンジなくして、サッカーの進化はないはずだが...。

20チームの“3分の1強”が 4ー3ー3で開幕しそうだ
【セリエAの開幕が数日後に迫り、新シーズンに向けての準備が大詰めを迎えた各チームの布陣をざっと見てみると、4バックのシステムが殆どだ。3バックの採用が濃厚/確実なのはジャン・ピエロ・ガスペリーニ新監督を招聘したインテル・ミラノと、ワルテル・マッザーリ政権が3年目に突入したナポリだけ。後は、マウリツィオ・ザンパリーニ会長が3バックの導入を目論んでいるパレルモがもしかしたらという程度で、多くとも3〜4チームに限られそうだ。
 ピッチの横幅を十分にカバー出来るのが、4バックのアドバンテージだ。一方、3バックには、中盤(あるいは前線)に選手を1人多く配せるというメリットがある。
 このところ良く耳にするのは、3バックでは勝てないという論調だ。チャンピオンズ・リーグでもヨーロッパリーグ(以下CLとEL)でも、3バックのシステムで優勝したチームはとんと御無沙汰ではないかという見解らしい。私に言わせればサッカーは、新しいやり方にチャレンジし続けることでしか進化しない。そのチャレンジの一つに、今や3バックという戦術も含まれていると考える。
 戦術的なチャレンジがなければ、ゾーンディフェンスやプレッシングは未だに存在しなかったに違いない。イタリアのサッカーは今も、リベロを配するマンツーマンディフェンスの“カテナッチョ”に支配されていたのだろう。新シーズンの少なくともセリエAでは、3バックを含めた新たな試みにチャレンジするチームの優勝を見てみたい。そんな希望を私は持っている。
 8月27日の開幕を数日後に控えた現時点で、最も効果的な強化が出来ているのはどのクラブだろうか。私の見立てではナポリということになる。スクデットの獲得に向けてモチベーションが最も高いのも、南イタリアのこの雄だろう。
 気が早過ぎると笑われそうだが、来年の5月にナポリがセリエAの王者になっていたとしても、あるいは2位の座を掴んでいたとしても、私は驚かない。・・・(略)・・・。
 セリエAで最も多くのチームが採用することになりそうなのは、4ー3ー3システムだ。カリアリ、カターニャ、チェゼーナ、レッチェ、ジェノア、フィオレンティーナ、そしてASローマと、20チーム中の3分の1強を占める7チームがこの布陣で開幕を迎えるだろう。
 良く見てみると、この中にスクデットを争えるトップクラスのチームは一つもない。ローマはどうなのだとそんな声が聞こえて来そうだが、そのレベルには無いというのが、現時点での私の評価だ。ローマを含めた数チームがELの出場権を争い、その他はセリエA残留を目標としてシーズンを戦うことになるだろう。
 次に多いシステムは、ボローニャ、キエーボ・ヴェローナ、パレルモ、ノバーラ、そしてACミランの5チームが採用しそうな4ー3ー1ー2だ。オーソドックスな4ー4ー2システムで開幕に臨むのは、アタランタ、パルマ、シエナの3チームとなるだろう。】
大刷新を敢行したローマはELのプレーオフでまさかの敗退。戦術的な興味の大きい注目のチームだが。

セリエAを制したミランが スペクタクルだったとは...
【実験的なチャレンジに積極的なセリエAのチームが少なくなっているのは、既に紹介した数字が物語る。4ー3ー3と4ー3ー1ー2を合わせると、計12チームのシステムが「4DF+3MF」となっている。4人のDFと3人のMFを足した7人を動員すれば、安定したディフェンスは十分構築出来る。しかし、7人で守り、3人で攻めるという戦い方では、4バックを組み込むシステムの本来の特性である、「両サイドバックの攻撃参加によるオフェンスの活性化」は望めない。
 ラツィオなどで指揮官を務め、イタリアにおける“4ー3ー3の父”とでも呼ぶべきズデネク・ゼーマン(今シーズンからセリエBのペスカーラで指揮を執る)は、この両サイドバックの攻撃参加とウイングのカットインという2つの要素を最大限に活用しながら、極めて攻撃的でスペクタクルなサッカーを展開したモノだ。その点で、例えば昨シーズンのセリエAを制したミランはどうだっただろうか。4ー3ー3システムの派生型である4ー3ー1ー2で戦いながら、攻撃的ともスペクタクルとも言い難いサッカーしか見せていない。
( ー 中 略 ー )
 アッレグリ監督は少なくとも6人(4バック+ファン・ボンメルとガットゥーゾ)をボールの後ろに残してディフェンスに備えさせ、セードルフにも攻撃より守備に注意を払いながらプレーさせていた。・・・(略)・・・。
 ズラタン・イブラヒモビッチとアレッシャンドレ・パット(もしくはロビーニョ)の2トップを前線の基本としたミランのサッカーは、FWの個人能力だけに依存した完全な攻守分業型ではなく、スペクタクルとは言えないもののソリッドな強靱さを備えた現代的なスタイルだった。・・・(略)・・・。
 就任3年目を迎えたエドアルド・レーヤ監督率いるラツィオは、ジョゼ・モウリーニョ監督時代のインテルと同じ4ー2ー3ー1システムで開幕に臨むだろう。4ー2ー3ー1をを採用するセリエAのチームは、今やラツィオだけとなっている。
 CLのプレーオフで難敵のアーセナルと対戦したウディネーゼ(編集部・注:2試合トータル1ー3でプレーオフ敗退に終わった)は、4ー1ー4ー1を使っている。少し見ただけでは守備的にも映るが、実際には2列目の4人が敵陣深くに攻め上がり、崩しとフィニッシュに絡むポテンシャルを持っており、相手に守備の基準点を与えないという意味でも有効なシステムだ。
 とはいえウディネーゼのフランチェスコ・グイドリン監督は、夏のメルカートが終了してメンバーが揃った時点で、昨シーズンと同じ3バックにシステムを戻すと私は踏んでいる。仮に3バックに戻していないとすれば、それはオーナーのポッツォ家がグイドリンの要求に応えられず、必要十分な戦力を補強できなかったせいだろう。

ガスペリーニがシステムを 変えようとしている理由は
●攻撃的な4ー2ー4を標榜するのがユーベのコンテ新監督。システム自体の完成度の高さに太鼓判は押せても、戦力が不十分では...
●8月6日のスーパーカップは、ミランに逆転負け。インテルのガスペリーニ監督もシステムの変更を検討か。
【ユベントスのアントニオ・コンテ新監督は極めて攻撃的な4ー2ー4システムを標榜し、インテルのガスペリーニ新監督は一貫して3ー4ー3システムの使い手だ。サッカーに限って言えばイタリアという国が如何に保守的で、如何に後進的かを物語っているのは、この2人の指揮官に対する否定的な見方だろう。戦術的柔軟性に欠けるダとか、特定のシステムしか使えない頑迷な監督ダとか、どうしてそのような偏見を持ち出せるのか理解に苦しむ。
 コンテが採用してきた4ー2ー4システムの完成度の高さは、次の事実からも窺える。バーリでコンテの後任監督となったジャンピエロ・ヴェントゥーラは、4ー2ー4をそのまま引き継いで、2009ー10シーズンのセリエAで大きな驚きを提供してみせた。そればかりか今シーズンから率いるセリエBのトリノでも、同じシステムを使おうと試みている。素晴らしい実績なら、ガスペリーニも持っている。この指揮官に率いられた08ー09シーズンのジェノアはスペクタクルなサッカーを披露したうえ、CL出場権にあと一歩の5位でセリエAをフィニッシュしてみせたのだ。
 勿論ガスペリーニやコンテにも、志向するサッカーを実践して行くのに適したプレーヤーが必要だ。仮に戦力が不十分な場合は、特定のシステムにこだわって自滅するよりも、戦術の修正を選択するに違いない。
 そもそもユーベがコンテを招聘したのは、42歳のこの青年監督がバーリやシエナで築いたサッカーの質を評価したからだろう。インテルのマッシモ・モラッティ会長は、ガスペリーニが育んできた3ー4ー3への愛着を承知したうえで、レオナルドの後任に迎えたはずだ。そうであるなら、補強に関する監督の要求に応えないのは、クラブ側の重大な過失だと言っていい。
( ー 中 略 ー )
 システムの変更は、コンテの頭の中にもアルようだ。要望している左ウイングを獲得できなかった場合は、4ー3ー3に切り替える。そんなシナリオを否定していない。
 私を含めた一部の論者は、その左ウイングにエマヌエル・ジャッケリーニを獲得しそうだという噂に眉をひそめているところだ。昨シーズンのチェゼーナで素晴らしい活躍を見せたのは確かだが、ユーベに相応しいほどのクオリティーを備えたプレーヤーなのだろうか。そう問われれば、私はNOと答えよう(編集部・注:その後、ジャッケリーニのユーベ移籍は正式に決定)。
 右ウイングのミロシュ・クラシッチは戦術的にチームと噛み合わず、技術的にも違いを作り出せていない。今のクラシッチを比較の対象とするなら、ジャッケリーニなり他の凡庸なウイングの方がはるかにましだ。クラシッチを起用して4ー2ー4で試合に臨むくらいなら、起用しない4ー3ー3の方がまだいいだろう。4ー3ー3システムなら中盤を、新戦力のピルロとアルトゥーロ・ビダル、そしてクラウディオ・マルキージオというユーベが誇るMF陣で構成出来るのだから。】 《この項・了》
[編集部・注:8月27日に予定されていたセリエAの開幕は延期となった。統一契約書の更新について、統括機構のレーガ・セリエAとイタリア・サッカー選手協会の間の合意が得られなかったためで、選手協会がストライキを実施した]


《ワールドサッカーダイジェスト:2011.9.15号_No.347_記事》
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BRASIL コパ・アメリカ惨敗のこれが理由 [THE JOURNALISTC]

[サッカー][目] [耳]  [手(パー)]
カンピオナット  《ロドリゴ・ブエノ記者》
セレソンがコパ・アメリカで惨敗を喫した理由は、枚挙に暇(いとま)がない。準備不足、攻守分業の時代錯誤な戦術、そしてネイマールら若手の低調なパフォーマンス...。指揮官メネゼスの眼前に広がっているのは、茨の道だ。

団結力やスピリットの面で ウルグアイに大きく劣った
【「精度ゼロ」
「得点できなかった代償」
 コパ・アメリカ準々決勝でブラジルがパラグアイに敗れた(PK戦で0ー2)翌日、私が勤務する国内最大の日刊紙『フォーリャ・デ・サンパウロ』のスポーツ欄には、こんな見出しが躍った。
 前者はPK戦を4人連続で外したことを、後者は前後半と延長戦の計120分間で1点が取れず、それが敗退を招いたことを指している。
 ちなみに、スポーツ紙『ランセ!』の見出しは、「キックはスペース(宇宙)へ!」。これは勿論、4本中3本がゴールの遥か彼方へ消えて行った悪夢のようなPK戦を揶揄している。
 あらゆるメディアの試合評に於いて、PK戦を除く120分の戦いでは、ブラジルがパラグアイを圧倒していたという認識で共通していた。90分間で、あるいは120分間で勝利に値するチームがアッタとすれば、それはブラジルだった。国民の多くがPK戦の惨状に強い憤りを感じながら、試合内容そのものを厳しく批判するような声は上がっていない。
 とはいえ、ブラジルは自陣に引き蘢った臆病なパラグアイのゴールをこじ開けられず、ひっそりと家路に就いた...。それが現実だ。
 ブラジルが敗退した理由について、カフーは「優秀な選手は大勢いるが、戦術的にも精神的にもひとつのチームになっていなかった」と述べ、ドゥンガは「期待していた若手が未だ成熟していなかった」と語っている。
 どちらの意見も、非常に的を射ているように思う。効率的でありながら美しいプレースタイルで優勝したウルグアイと比べると、ともに準々決勝で敗退したブラジルとアルゼンチンは、チームとしての団結力、スピリットという部分で大きく劣っていた。
 また、多くのブラジル国民は、ネイマールとガンソが既に世界トップレベルのプレーヤーだと考えていたが、実はそれが誤りだと、今大会で証明された。これは、ともすればそのように報じて来た我々ブラジル・メディアにも、責任の一端がアルだろう。
 大会を通じてセレソンがある程度の成長を遂げた事実を、私も否定はしない。グループステージ(以下GS)初戦のベネズエラ戦(△0ー0)と第2戦のパラグアイ戦(△2ー2)では、攻守にミスが目立ち、選手のフィジカル・コンディションにもバラつきがアッタが、GS最終節のエクアドル戦(○4ー2)では、守備面のミスこそアッタものの、攻撃面の連携に格段の進歩が見られた。
 そして、皮肉なことに、最後の試合となった準々決勝が、今大会におけるセレソンのベストゲームだった。】

真の9番と10番を探す旅は これからも続くだろう...
●ガンソはコンディション調整、ネイマールは敵の密着マークに苦しみ、本領発揮ならず。「評価を見直すべき」との声も噴出した。
●3年後の自国開催W杯を見据え、若手中心の布陣で今大会に臨んだメネゼス監督だが、結果が付いて来なかった。
●守備力の高いパラグアイとの2試合は、いずれもノーゴール。ここ一番の大事な局面でパットは、結果を残せず。
惨敗の理由は、枚挙に暇(いとま)がない。そもそも、コパ・アメリカに対する準備と心構えという点で、ブラジルは甘過ぎた。優勝が義務付けられていた開催国アルゼンチンを含め、その他の国も今年10月にスタートする2014年ワールドカップ・南米予選を念頭に置いてベストメンバーを招集し、20〜30日間の長期合宿を組んで大会に備えた。
 対して、開催国のためワールドカップ予選を免除されるブラジルが、コパ・アメリカのために費やした準備期間は、僅か10日間。参加12カ国中で最短だった。直前合宿が短かったのは、マノ・メネゼス監督が、シーズンを終えたばかりの欧州組の休養を優先させたから。この出遅れの時点で、セレソンが今大会を制覇する可能性は、限りなく低くなっていたと言えるだろう。
 ピッチ上での最大の問題は、極端過ぎる攻守分業。大会を通じてセレソンは、攻撃4人と守備7人に分断された時代錯誤なチームだった。両サイドバックの攻撃参加が少なく、オフェンス面の貢献が期待された第2ボランチのラミレスも、殆ど攻撃の組み立てに加われなかった。
 その一方で、1トップのアレッシャンドレ・パット、トップ下のガンソ、右ウイングのロビーニョは、殆ど守備に参加しない。攻撃陣でディフェンスに加わる意思を見せたのは、左ウイングのネイマールが唯一だった。
 ・・・( ー 中 略 ー )・・・
 攻撃陣のガンソ、パット、ネイマール、ロビーニョの4人は、揃いも揃って本領を発揮できなかった。
 ガンソは怪我による長期欠場から復帰した直後で、コンディションがあまりにも悪過ぎた。4試合で3アシストは及第点の数字だが、試合から消えている時間が大半。ただ、糾弾されるべきは、体調不良が事前に分かっていながら起用し続けた指揮官だろう。
 同じく故障明けだったパットも、ベストフォームには程遠い出来。GS第3戦のエクアドル戦で2ゴールを叩き込んだが、初戦のベネズエラ戦、準々決勝のパラグアイ戦など、大事な一戦でゴールネットを揺らせなかった。セレソンは未だに、ここぞという場面で得点を挙げたロマーリオ、ロナウドの後継者を見出せずにいる。
 そしてネイマールも、潜在能力からすれば大いに不満が残る。パットと同じくGS第3戦で2ゴールを挙げたが、プレッシャーの掛かった準々決勝で決定機を何度も外した。現時点ではそれが実力だと、そう言わざるを得ない。
 最大の失望となったのが、ロビーニョだ。既にピークを過ぎた印象で、3年後のワールドカップで今以上のパフォーマンスを披露出来るとは、到底思えない。代役探しが急務だろう。
 期待値の高かった18歳のルーカスは、GSと準々決勝の全4試合で途中出場し、何度か鋭い突破を見せたが、決定機を生み出すには至らなかった。
 故障明けでコンディション不良というエクスキューズがアッタにしろ、今大会でパットとガンソが期待外れに終わり、自国開催のワールドカップに向け、攻撃陣の柱となる9番(エース)と10番(司令塔)を探す旅は、これからも続くだろう。
 9番はパット、フレッジ、フッキ、レアンドロ・ダミアンらが候補だが、いずれも現時点では決め手に欠ける。新たなタレントの出現を望みたい。
 10番は当面、ガンソ、ジャジソン、チアゴ・ネーベスらがポジションを争うはずだが、個人的にはカカの復調に期待している。
 指揮官にはまず、攻守分業のスタイルを捨て、チーム全員が攻守両局面で能動的に機能する近代的な戦術の採用を求めたい。その上で、傑出した個の力を生かす術を考えるべきだろう。
 準々決勝直後、CBF(ブラジル・サッカー連盟)のリカルド・テイシェイラ会長は、メネゼス監督の続投を宣言している。この決定に対しては、国内でも賛否両論。そもそも、メネゼスは満場一致で代表監督に指名されたわけではなく、今後負けが込めば、解任は免れない。ある者はサントスを率いて今年のコパ・リベルタドーレスを制したムリシー・ラマーリョを推し、ある者は02年ワールドカップで優勝監督となった“フェリポン”ことルイス・フェリペ・スコラーリ(現パルメイラス監督)が適任だと主張する。
 かくいう私も、フェリポンこそセレソンの監督に相応しいと考えている。ラマーリョは優秀な指導者だが、感情面にムラがあり、発言にもブレがある。対してフェリポンは、頑固一徹で岩のような信念の持ち主だ。
 また、02年ワールドカップ優勝の実績は、少々の批判や雑音を跳ね返しうる。若い選手達の父親となってチームを掌握し、優勝が義務付けられた地元開催というプレッシャーと付き合いながら邁進して行く上で、フェリポン以上の適任者はイナイだろう。
 地元でワールドカップを制するために“挙国一致体制”を敷くのであれば、CBFはパルメイラスと交渉し、今直ぐフェリポンを引き抜くべきだ。
 続投が決定したとはいえ、コパ・アメリカという最初のテストが落第点に終わり、メネゼスには逆風が吹き荒れている。今年は今後、ドイツ(8月10日/2ー3で敗戦)、アルゼンチン(9月14日と28日)、イングランド(11月15日)と、大国との強化試合が控えているが、指揮官がコパ・アメリカからチームをどう変化させるか。興味深い。
 また、メネゼス監督は来夏のロンドン五輪のUー23代表も率いる予定で、これが次なる“公式テスト”。ここで優勝すれば取り敢えず合格だが、仮にメダルに手が届かなかった場合は、更迭すべきだろう。

ネイマールとルーカスの穴を チームの総合力で補えるか?
【7月20日に開幕したUー20ワールドカップ・コロンビア大会に参戦中の、ブラジルUー20代表にも簡単に触れておきたい。
 Uー20代表は、昨年9月にメネゼスから指名されたネイ・フランコ監督が、A代表と同じコンセプトでチーム作りを進め、今年1〜2月にペルーで行なわれたUー20南米選手権で優勝。Uー20ワールドカップとロンドン五輪の出場権を獲得した。
 Uー20ワールドカップの目標は、勿論優勝。ただ、Uー20南米選手権当時とは、状況が大きく異なる。攻撃陣の柱だったネイマールとルーカスがA代表に定着し、Uー20のカテゴリーを卒業。今大会の参加も見送られた。
 組み立て、崩し、フィニッシュと攻撃に全権を担っていたネイマールとルーカス不在の影響は、まさに甚大だ。Uー20南米選手権の全10試合で、ブラジルが記録したのは計24ゴール。そのうち、ネイマールが9得点、ルーカスが4得点を叩き出し、コンディション不良で今大会の登録メンバーから外れたFWのジエゴ・マウリシオも2得点を挙げた。この3人の計15得点は、チーム総得点の約63㌫。この穴をどう埋めるかが、今大会最大の焦点となる。
 とはいえ、Uー20世代では突出した能力を持つネイマールとルーカスの代役などすぐに見つかるわけがない。チーム全体で、得点力の低下を補って行くしかないだろう。
 実際、大会前にフランコ監督は、代表としては異例とも言える20日間に及ぶ強化合宿を行ない、紅白戦と強化試合を通じて、個人能力の低下をチームの総合力で補おうと努めていた。
 例えば、Uー20南米選手権でも躍動した右サイドバックのダニーロの攻撃参加だ。スピード、運動量、テクニックを兼ね備えた逸材は、・・・(略)・・・。
( ー 中 略 ー )
 前線は独特の得点感覚を備えたエンリケ、強さと高さを兼備したウィリアンが、キーマンだろう。
 守備の課題は連携面。南米選手権では、ボランチ、サイドバック、CB、GKの連動性に少なからず問題を抱えていた。ただ、守備陣の顔触れはこの半年変化しておらず、練習試合を通じて徐々に改善傾向にある。所属クラブで出場機会を増やし、技量と経験値を上げた選手が多いのも、好材料だ。
 Uー20南米選手権は破壊的な攻撃力で勝ち切った印象だったが、Uー20ワールドカップではしっかりと守備ブロックを築いて守りを固め、少ないチャンスをモノにして勝利する...。そんなしたたかな戦い方も、必要だろう。主将を務めるCBのブルーノ・ウビーニの統率力に、期待が掛かる。
 大会中に攻守で完成度を高めて行けば、優勝も夢ではない。フランコ監督の腕の見せ所だ[編集部・注:ブラジル代表はグループリーグを2勝1分けで首位通過。8月10日の決勝トーナメント1回戦は、サウジアラビアに3ー0で勝利。8月14日の準々決勝でスペインと対戦する]。】 《この項・了》


《ワールドサッカーダイジェスト:2011.9.1号_No.346_記事》
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EASTERN EUROPE 成長を続けるウクライナ・リーグ [THE JOURNALISTC]

[サッカー][目] [耳]  [手(パー)]
東ヨーロッパ  《ウラジミール・ノバク記者》
昨シーズンのチャンピオンズ・リーグで8強進出を果たすなど、シャフタール・ドネツクが欧州での存在感を増している。彼らを筆頭に、次々と新興勢力が台頭するウクライナ・プレミアリーグの11ー12シーズンを展望する。

3連覇を狙うシャフタール 躍進の理由はオーナーの...
シャフタール躍進のキーマンは、オーナーのアフメトフ。選手獲得に大金を投じ、ルチェスク監督に長期政権を任せた。
【7月8日、2011ー12シーズンのウクライナ・プレミアリーグ(以下UPL)がついに開幕した。ウクライナはUEFAカントリーランキングで現在8位。ヨーロッパ・カップ戦における過去5シーズンの実績がポイント化されるこのランキングで、オランダやトルコ、ギリシャなどよりも上位に食い込んでいるのだ。
 ウクライナがランキングの上位に食い込んだ主な要因として、シャフタール・ドネツクの躍進が挙げられる。08ー09シーズンにはUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)を制し、昨シーズンはチャンピオンズ・リーグ(CL)でベスト8に進出。ヨーロッパ王者のバルセロナと繰り広げた好勝負は、記憶に新しい。今回は、そのシャフタールを中心に、UPLの新シーズンを展望してみたい。
 優勝候補の大本命は、やはりシャフタールだ。特筆すべきは強力な前線で、ブラジル代表の一員として先のコパ・アメリカに参戦したジャジソンを筆頭に、ルイス・アドリアーノ、フェルナンジーニョ、ウィリアン、ドグラス・コスタ、エドゥアルド(クロアチア代表だがブラジル出身)と、ブラジリアン・プレーヤーで固められている。彼らの傑出したテクニックを活かし、華麗なパスワークで相手を翻弄する攻撃サッカーは、国内で無敵を誇る。
 10年ほど前ならば、CLで台頭したチームは、ビッグクラブに主力を引き抜かれてしまうのが常だった。しかし、総資産30億ドル(約2400億円)と言われる大富豪リナト・アフメトフがオーナーであるシャフタールに、その心配はない。エドゥアルドに年俸300万ユーロ(約3億6000万円)、フェルナンジーニョに200万ユーロ(約2億4000万円)など、選手に十分なサラリーを支払い、流出を防いでいるからだ。
 1996年にアフメトフがオーナーとなった当初は、「金持ちの道楽」だと国内外から批判を浴びせられたものだった。だが、このウクライナ随一の資産家は、単なる金満オーナーではない。クラブの経営に長く携わるうちに、継続性こそチーム強化の最大のポイントだと気付き、スタープレーヤーを集めるだけでなく、彼らを数シーズンに渡って留め置き、チームの熟成を図ったのだ。キャプテンでクロアチア代表のダリヨ・スルナは丸8年も在籍しており、指揮官ミルチェア・ルチェスクの在任期間も7年を超えた。時間を掛けて構築されたチームは、安定した成績を残すための基盤となっている。
 更に、今夏はCLでの4強進出を目標に掲げ、大型補強を敢行した。コリンチャンスから点取り屋のデンチーニョを、サントスからコパ・リベルタドーレス制覇の立役者であるMFアラン・パトリックを獲得して“ブラジル化”を更に推進。国内にも目を向け、昨シーズンのリーグ得点王エフゲン・セレズネフをドニプロ・ペトロフスクから、GKオレクサンドル・リブカをオボロン・キエフから引き抜いている。UPLで突出した存在となった彼らが、3連覇を逃すとは考え難い。】

名門ディナモは深刻な状況 代わって台頭するクラブは
【2強のもう一角を占め、過去の実績でシャフタールを上回るディナモ・キエフは、凋落ぶりが顕著だ。資金力ではライバルに引けを取らないが、支離滅裂なチームマネジメントが災いして、ここ2シーズンはタイトルから遠ざかっている。
 オーナーのイゴール・スルキスを初めとする首脳陣は、「選手は金を出して買えばいい」という考えから育成を軽視し、結果として、ユースチームからの優秀な若手の供給が途絶えた。更に、大金を投じて連れて来た選手がことごとく期待を裏切っており、チームの競争力は落ちる一方だ。
 今夏は5000万ユーロ(約60億円)の補強予算を計上したが、ニコ・クラニツァール(トッテナム)や、オスカール・カルドーソ(ベンフィカ)、パピス・デンバ・シセ(フライブルク)など、本命の選手にことごとくオファーを断られている。獲得できたのは、守備的MFのリュクマン・ハルナ(モナコから)、FWのイディエ・ブラウン(ソショーから)という若いナイジェリア人選手だけで、大幅な戦力アップとは行かなかった。
 アンドリー・シェフチェンコへの依存度は、ますます高くなるだろう。9月で35歳になる大ベテランに頼らざるを得ない状況は、極めて深刻ダ。CL予選3回戦のルビン・カザン戦では、シェバ(シェフチェンコの愛称)の欠場によってチームが機能しなくなり、2試合合計1ー4で敗退。サポーターの怒りは頂点に達し、メディアも連日、批判を展開している。チームは巨大なプレッシャーに晒されており、このまま空中分解してしまう可能性もある。今シーズンは期待できそうにナイ。
 一方で、躍進の可能性を感じさせるのがドニプロだ。航空産業で成功したオーナーのイゴール・コロモイスキが、ポケットマネーから5000万ユーロ(約60億円)を投入し、今年の冬と夏の移籍市場で大量補強を敢行している。DFのサミュエル・インコーム、MFのデレク・ボアテングのガーナ代表コンビニ、クロアチア代表のストライカー、ニコラ・カリニッチなどを揃え、監督にはセビージャを強豪に仕立て上げたファンで・ラモスを招聘した。時間の経過とともに、チームのクオリティーは高まって行くだろう。落ち目のディナモを追い越し、2位に食い込む躍進も十分に可能だ。
 ロシア同様、ウクライナのサッカー界はいわゆるニューリッチが数多く参入し、他国のリーグに比べて財政面で優位に立っている。今後、ドニプロ、メタリスト・ドネツク、カルパティ・リビフなどの新興勢力が更に力を増し、名門ディナモがかつての輝きを取り戻せば、UPLはやがてイタリアのセリエAやフランスのリーグ・アンを抜き去り、ヨーロッパのトップリーグの仲間入りを果たす可能性もある。今のうちから、是非とも注目して貰いたい。】 《この項・了》


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FRANCE 新生PSGが“規格外”のチームに [THE JOURNALISTC]

[サッカー][目] [耳]  [手(チョキ)]
リーグ・アン  《フランソワ・ヴェルドネ記者》
移籍市場で暫く静観を保っていたパリSGが、7月下旬からド派手な動きを見せた。オイルマネーにモノを言わせ、国内外の実力者を次々と獲得。もはやフランスでは並ぶ者がイナイ、強大チームへと変貌を遂げている。

タンクの蛇口は大きく開き 大量のマネーが流れ込んで
【8月初旬のパリは例年通り、道という道が観光客で溢れ返っている。
 そんな賑やかなパリの街中で、最近やたらと目に付くのが、大きな交差点の歩道などにボールで掲げられた派手な広告ダ。
「PSGよ、夢を見させてくれ」
 そうデカデカと書かれた広告には、ケビン・ガメイロが両手を高く突き上げ雄叫びを上げる姿や、鋭い眼光のネネがドリブルする姿などが描かれている。そして彼らのバックには、スタンドで歓喜する子供達。本拠地パルク・デ・プランスでのリーグ・アン開幕戦(8月6日。ロリアン戦)を前に、パリ・サンジェルマン(以下PSG)が実施している年間シート購入者を募るビッグキャンペーンの広告ダ。
 カタールの投資ファンド、『QSI(カタール・スポーツ・インベストメンツ)』に買収されてからの2カ月余りで、首都のクラブは顔も姿もすっかり変わってしまった。パリ市民が目を奪われているのは、街中に点在する刺激的な広告だけではない。突然、妖精が舞い降りて来て奇跡を起こしたかのように、一躍、強大なチームへと変貌したPSGに誰もが釘付けとなっているのだ。
 昨シーズン中から多くの専門家が、PSGはこの夏に大掛かりな人員刷新に踏み切るだろうと予想していたが、しかし、『コロニー・キャピタル』(アメリカの投資ファンド)が実権を握っていた当時のクラブは財政が逼迫しており、リクルーティングの対象はほぼ国内の選手に限られるだろうと見られていた。ところが、実際はどうだ。オイルマネーの流入により巨額の資金を得たクラブは、国内のみならず国外からも、名の知れたタレントを次々と獲得。これまでに8400万ユーロ(約100億8000万円)もの巨費を投じ、8人の新戦力を迎えている。
 しかも、今夏の補強は未だ終わってないらしい。新たなSDに就任したレオナルドは、十分な実績を持つ大型CBの獲得を目論んでいる・・・ベンフィカ・リスボンのルイゾンが有力視される・・・という。これがもし現実のモノとなれば、投資総額は1億ユーロ(約120億円)の大台に達するかも知れない。少なくともフランスでは、こんなことは前代未聞である。
 これまでにフランスで、ひと夏に最も多くのカネを費やしたのは09年のリヨンで、リサンドロ・ロペス、ミシェウ・バストス、アリ・シッソコらを獲得するのに7800万ユーロ(約93億6000万円)を投じている。つまりPSGは、既にこの記録を超えてしまったのだ。ヨーロッパの殆どのクラブが緊縮財政を敷く中で、この大盤振る舞いは際立つ。8400万ユーロというのは、マンチェスター・ユナイテッド(5800万ユーロ=約69億6000万円)やレアル・マドリー(5500万ユーロ=約66億円)が今夏に使った額を遥かに上回る。
 今やPSGは、同じく中東のオイルマネーの恩恵に浴するマンチェスター・シティやマラガと共に、移籍マーケットの一大勢力にのし上がった。オイルを貯蔵するタンクの蛇口は大きく開き、大量のマネーがフランスの首都に流れ込んでいるのだ。

ロナウジーニョを獲得した 10年前のあの衝撃にも匹敵
8月初旬に、人気銘柄のバストーレと電撃契約。4300万ユーロは払い過ぎという批判もあるが、国内外に強烈なインパクトを与えたのは確かだ。
【6月半ばにロリアンからガメイロを獲得して以降、暫く静観を保っていたPSGが、突如激しい動きを見せるのが7月下旬。僅か1週間ほどの間に、3100万ユーロ(約37億2000万円)を投じて5人の選手を手に入れたのだ。・・・(略)・・・。
 しかし、最も大きな衝撃はその直後、8月に入って早々に訪れた。チェルシーなどとの争奪戦を制し、今夏の人気銘柄であるパレルモのハビエル・バストーレと電撃契約を結んだのだ。違約金は4300万ユーロ(約51億6000万円)に上り、更にテーブルにサラリとチップを置くかのごとく、300万ユーロ(約3億6000万円)のインセンティブも付けられた。4300万ユーロというのは、アトレティコ・マドリーからマンチェスター・Cに移籍したセルヒオ・アグエロの4500万ユーロ(約54億円)に次ぐ、この夏二番目の高額移籍金である。
 母国アルゼンチンで「エル・フラコ(痩せっぽち)」と呼ばれる22歳の攻撃的MFは、PSGと5年契約を交わし、税抜きで年俸500万ユーロ(約6億円)を受け取ることになる。クラブ内に新たに設けられた監視評議会の責任者で、事実上のクラブのトップであるナセル・アル・ケライフィは、「新たなメッシを手に入れた」とご満悦で、この新戦力に大きな期待を寄せている。
 しかし、バストーレの獲得は大きなリスクを伴っているのも確かだろう。
 このアルゼンチン代表MFは、実際のところフランスでは殆ど無名で、2年間プレーしたセリエAでの実績も特質に値するほどではない。昨シーズンのセリエAでは11ゴールを決めているが、勝利に直結するような重要なゴールは殆どなかったという気になるデータもある。更に、これまでチャンピオンズ・リーグに出場した経験がなく、大舞台での実績は皆無に等しい。そんな選手に4300万ユーロを投じたPSGの判断を、「クレイジー」と嘲(あざけ)る者がいるのは理解出来る。
 何故、PSGはこんな博打を打ったのか。新執行部のカタール人たちは、自分達の存在と野心を世界に知らしめるため、大きな鐘を打鳴らす必要がアッタのだ。SDに迎えられたレオナルドにしても、誰にでも分かる明白な成果が欲しかったのだろう。実際、今回のバストーレ獲りはその是非は兎も角、01年のロナウジーニョ獲得(01年1月に契約を交わし、その半年後に入団した)に匹敵する衝撃を、国内外にもたらしている。
 リーグ・アンの歴史を紐解いても、バストーレの移籍金は飛び抜けている。それまでの最高額は、2000年にPSGが、R・マドリーからニコラ・アネルカを獲得する際に支払った3300万ユーロ(約39億6000万円)だから、一気に1000万ユーロ(約12億円)も記録を更新したことになる。
 オイルマネーとレオナルドの世才により、PSGはことリクルーティングに関する限り、今やメガクラブと肩を並べる存在となった。このまま着実に力を付け、実績を積み重ねて行けば、真にメガクラブの称号を得る日もそう遠くはないだろう。

いかに高級食材を揃えても 調理法を誤れば台無しに...
コンブアレは、自らの立場を理解しているはず。出だしで躓くようなことがあれば、直ぐにでも首を切られるだろう。
【もはやPSGには、何一つ不可能なことはないとさえ思えて来る。なにしろ、8400万ユーロという今夏の投資額は、リーグ・アンの他の19クラブのそれの総額を軽く上回るのだ。
 例えば、宿敵マルセイユはこれまでに、アルー・ディアッラ(ボルドーから)、ニコラ・ヌクル(ASモナコから)、ジェナロ・ブラシリャーノ(ASナンシーから)、モルガン・アマルフィターノ、ジェレミー・モレル(共にロリアンから)の5人を獲得しているが、その移籍金の合計は1100万ユーロ(約13億2000万円)に過ぎない。これは、PSGがガメイロひとりに費やしたのと同額だ。
 事実、現時点での比較で、PSGの戦力値は他のチームのそれを大きく上回る。フランス国内においてはまさに“規格外”であり、ファンの間では、「ギャラクティック・ド・パリ(パリの銀河系)」と呼ばれているほどだ。
 しかし、幸か不幸か、プロフットボールの世界では全てがカネで決するわけではない。巨額の資金を投入したからといって、必ずしも勝利を掴めるとは限らないのだ。いくら優秀なタレントを集めても、チームとして機能しなければ結果は付いて来ない。
 しかも今シーズンのPSGは、否応無しに、あらゆるチームの標的にされるだろう。
 プレッシャーを掛けてくるのは、他のチームだけではない。これだけの補強をしたのだ。もし出だしで躓くようなことがあれば、メディアやファンから猛烈な批判が向けられるのは目に見えている。そうした様々な重圧が、PSGを待ち受けているのだ。
 実際にPSGは、過去に何度か苦い経験をしている。大手ケーブルTV局『カナル・プリュス』の支配下にアッタ時代に、・・・(略)・・・。
総額で6600万ユーロ(約79億2000万円)を投じて強化を図ったにもかかわらず、9位という惨憺たる結果に終わったのである。
 就任3年目のアントワン・コンブアレ監督は、自分の立場を理解しているはずだ。直ぐさま結果を出さなければ、容赦なく切り捨てられるだろうことをダ。カタール人というのは情にホダサレナイことで有名で、雇用者をクビにすることに躊躇など全くシナイ。
 ・・・(略)・・・。
巷では、このクラブOBは強大なチームに変貌した新生PSGを率いる器ではないと見る向きが強く、既に水面下ではレオナルドが、旧知のカルロ・アンチェロッティと接触を図っているとまことしやかに囁かれている。
 最も、コンブアレの立場を考えると、気の毒な面もある。確かに戦力は、昨シーズンと比較にならないほど充実した。しかし、新シーズンへの準備を進めている最中に、突然、大量の新戦力を与えられても、上手く対応するのは難しいだろう。いうなれば、あちこちから優秀な演奏家が集まって来たものの、リハーサルを行なう時間もないまま、ステージに上がってタクトを振らなければならないような状況ダ。
 コンブアレはまた、不満分子が出ないよう、細心の注意を払ってチームをマネジメントしなければならない。大型補強により、想定外のポジションにまで競争が持ち込まれたため、定位置争いに敗れた選手から不満が噴出する恐れがあるのだ。
( ー 中 略 ー )
 最も、こうした状況こそ、レオナルドが望んでいたモノだろう。レオナルドとアル・ケライフィは、公言こそしていないが、リーグ・アンとヨーロッパリーグの2冠を狙っており、そのためには戦力の拡充が不可欠だと考えていた。実際のところ、今夏の補強でチームが二つ出来るほど選手層の厚みが増しており、彼らの野望も決して夢ではないはずだ。
 とはいえ繰り返すが、タレントを揃えさえすれば勝てるというものではない。この2〜3年のリヨンが格好の例だ。たとえ高級食材を取り揃えても、組み合わせが悪かったり、味付けに失敗すれば、美味しい料理は出来ない。肝心なのは、選手達を上手く配合し、個の力をチーム力に昇華させることなのだ。とにもかくにも、まずはコンブアレの手腕が試されることになる。】 《この項・了》


《ワールドサッカーダイジェスト:2011.9.1号_No.346_記事》
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