ブラジル・ワールドカップ_出場32か国の「通信簿」_ブラジル [ダイジェスト特別版]
3 ：グループＡ
ブラジル 総合評価：Ｅ-（落胆しか残らない＝未来への収穫_小） 最終結果 → ベスト4（4勝1分け2敗／11得点・14失点）
評者：ルッシオ（パルメイラス／元ブラジル代表）
【一番の問題は2列目の質だ 攻守で最終ラインに負担を】
自国開催、経験豊富なフェリポン（スコラーリ監督の愛称）、守備力の高さ、ネイマールという傑出したエースの存在———。これだけポジティブな要素があり、当然ながら優勝を期待していた。大きく失望している。
準決勝のドイツ戦は文字通りショッキングな惨敗・・・。ネイマール、Ｔ・シウバという攻守の柱の欠場は、想像以上に痛恨だった。出場停止のＴ・シウバの代役を務めたダンチは、強化試合で何度かＤ・ルイスとコンビを組んでおり、バイエルン所属だけにドイツの特徴を熟知。十分に戦えると踏んでいたが、実際は違った。単純な個人能力は勿論だが、それ以上に周囲とのコンビネーションという点でＴ・シウバとは雲泥の差がアッタ。相棒Ｄ・ルイスも準々決勝までの素晴らしいパフォーマンスが夢だったかのように、小さな判断ミスを連発。ゲームキャプテンという重責が、気負いを生んだのかも知れない。
しかし、セレソンの最大の問題は、2列目にアッタと私は思う。ドイツ戦に限った話ではない。今大会を通じてダ。ネイマールを除くとマーカーを出し抜くための動きが少なく、ＣＢやボランチからのパスコースが限定された。無理なパスで奪われてカウンターを食らうのを恐れ、ロングボールを多用する単調な攻撃に終始したのは、それゆえダ。この傾向はグループリーグから最後まで続いており、中盤でしっかりビルドアップして攻撃できたのは、カメルーン戦の後半とコロンビア戦の前半だけだった。ボールロスト後の切り替えと帰陣が遅い2列目は、守備でもボランチと最終ラインに大きな負担を掛けた。
パウリーニョとＤ・アウベスの低調も計算外。13-14シーズンの所属クラブで鳴かず飛ばずだった2人は、ソノ悪い流れのまま今大会に入ってしまった。パウリーニョの代役を務めたフェルナンジーニョは、コロンビア戦は攻守両面で貢献。しかし、ドイツ戦では決定的なミスを連発した。
フレッジとフッキも、持ち味を発揮できなかった。ロマーリオとロナウドが引退して以来、ブラジルにはこの2人に匹敵するようなストライカーが生まれていない。順調にいけばセレソンの9番を背負うはずだったのは、パット（サンパウロ）だろう。ただ、筋肉系の故障を繰り返し、成長が鈍化した超逸材は、今大会の登録メンバーにすら食い込めなかった。攻撃的ＭＦは完全にクオリティー不足。将来を嘱望されていたガンソ（サンパウロ）が同じく故障で伸び悩んだのが痛かった。
こんな状況下だったため、現セレソン攻撃陣で唯一のクラッキ（傑出したタレント）であるネイマールには、チャンスメークとゴールといういわば2人分の働きが求められていた。22歳という年齢で、優勝が義務付けられたセレソンの絶対的エースを担うのは、尋常ではないプレッシャーである。ファウルまがいの厳しいマークにも苦しんだ。そんな中で4ゴールを挙げたのだから、私は良く頑張ったと思う。しかし、コロンビア戦でのそのネイマールが、スニガの悪意に満ちた膝蹴りで背骨を折られる不運に見舞われる。ドイツ戦で露呈したのは、代役不在の現実だった。
フェリポンは選手のモチベーションを上げ、最大限の能力を発揮させる天才だ。ドイツ戦の前には、「ネイマールの穴は、2億人の国民全体で埋める」というエモーショナルな言い方で、選手達の奮起を促した。しかし今回に限っては、それが成功しなかった・・・。
とはいえ、本来のブラジル・フットボールは、一人や二人の個人能力に頼る底の浅いモノではないし、またそうでアッテはならない。かつてのブラジルは、ワールドカップで優勝を争えるチームをいくつも作れるほどタレントが溢れ返っており、代表監督は登録メンバーの人選に大いに頭を悩ませたものだ。しかし、近年はＣＢ、ボランチ、SBは兎も角、攻撃的ＭＦとＦＷの人材が明らかに枯渇。私も参加した過去3大会（02年、06年、10年）のチームと比べても、それは明らかだ。
今大会のパフォーマンスから、将来への明るい材料を探すのは難しい。ただ、ネイマールが遠からず世界ナンバーワン選手と成れる能力と精神力を発揮し、Ｔ・シウバとＤ・ルイスが揃っていれば守備は強固だった。更に、前回大会の準々決勝で敗戦に繋がるミスを犯したＪ・セーザルの復活は、かつてのチームメイトとして非常に嬉しかった。
現セレソンは伸びしろを残した選手が多いが、ＧＫ、右ＳＢ、ＣＦなどは世代交代が必須。更に攻撃的ＭＦにクラッキを輩出することが、ブラジル・フットボール復活の最低条件となるだろう。
《ワールドサッカーダイジェスト：2014.8.7号_No.416_記事》
{{月２回刊：第１・第３木曜日発売＿全国書店・コンビニ}}
ブラジル 総合評価：Ｅ-（落胆しか残らない＝未来への収穫_小） 最終結果 → ベスト4（4勝1分け2敗／11得点・14失点）
評者：ルッシオ（パルメイラス／元ブラジル代表）
【一番の問題は2列目の質だ 攻守で最終ラインに負担を】
自国開催、経験豊富なフェリポン（スコラーリ監督の愛称）、守備力の高さ、ネイマールという傑出したエースの存在———。これだけポジティブな要素があり、当然ながら優勝を期待していた。大きく失望している。
準決勝のドイツ戦は文字通りショッキングな惨敗・・・。ネイマール、Ｔ・シウバという攻守の柱の欠場は、想像以上に痛恨だった。出場停止のＴ・シウバの代役を務めたダンチは、強化試合で何度かＤ・ルイスとコンビを組んでおり、バイエルン所属だけにドイツの特徴を熟知。十分に戦えると踏んでいたが、実際は違った。単純な個人能力は勿論だが、それ以上に周囲とのコンビネーションという点でＴ・シウバとは雲泥の差がアッタ。相棒Ｄ・ルイスも準々決勝までの素晴らしいパフォーマンスが夢だったかのように、小さな判断ミスを連発。ゲームキャプテンという重責が、気負いを生んだのかも知れない。
しかし、セレソンの最大の問題は、2列目にアッタと私は思う。ドイツ戦に限った話ではない。今大会を通じてダ。ネイマールを除くとマーカーを出し抜くための動きが少なく、ＣＢやボランチからのパスコースが限定された。無理なパスで奪われてカウンターを食らうのを恐れ、ロングボールを多用する単調な攻撃に終始したのは、それゆえダ。この傾向はグループリーグから最後まで続いており、中盤でしっかりビルドアップして攻撃できたのは、カメルーン戦の後半とコロンビア戦の前半だけだった。ボールロスト後の切り替えと帰陣が遅い2列目は、守備でもボランチと最終ラインに大きな負担を掛けた。
パウリーニョとＤ・アウベスの低調も計算外。13-14シーズンの所属クラブで鳴かず飛ばずだった2人は、ソノ悪い流れのまま今大会に入ってしまった。パウリーニョの代役を務めたフェルナンジーニョは、コロンビア戦は攻守両面で貢献。しかし、ドイツ戦では決定的なミスを連発した。
フレッジとフッキも、持ち味を発揮できなかった。ロマーリオとロナウドが引退して以来、ブラジルにはこの2人に匹敵するようなストライカーが生まれていない。順調にいけばセレソンの9番を背負うはずだったのは、パット（サンパウロ）だろう。ただ、筋肉系の故障を繰り返し、成長が鈍化した超逸材は、今大会の登録メンバーにすら食い込めなかった。攻撃的ＭＦは完全にクオリティー不足。将来を嘱望されていたガンソ（サンパウロ）が同じく故障で伸び悩んだのが痛かった。
こんな状況下だったため、現セレソン攻撃陣で唯一のクラッキ（傑出したタレント）であるネイマールには、チャンスメークとゴールといういわば2人分の働きが求められていた。22歳という年齢で、優勝が義務付けられたセレソンの絶対的エースを担うのは、尋常ではないプレッシャーである。ファウルまがいの厳しいマークにも苦しんだ。そんな中で4ゴールを挙げたのだから、私は良く頑張ったと思う。しかし、コロンビア戦でのそのネイマールが、スニガの悪意に満ちた膝蹴りで背骨を折られる不運に見舞われる。ドイツ戦で露呈したのは、代役不在の現実だった。
フェリポンは選手のモチベーションを上げ、最大限の能力を発揮させる天才だ。ドイツ戦の前には、「ネイマールの穴は、2億人の国民全体で埋める」というエモーショナルな言い方で、選手達の奮起を促した。しかし今回に限っては、それが成功しなかった・・・。
とはいえ、本来のブラジル・フットボールは、一人や二人の個人能力に頼る底の浅いモノではないし、またそうでアッテはならない。かつてのブラジルは、ワールドカップで優勝を争えるチームをいくつも作れるほどタレントが溢れ返っており、代表監督は登録メンバーの人選に大いに頭を悩ませたものだ。しかし、近年はＣＢ、ボランチ、SBは兎も角、攻撃的ＭＦとＦＷの人材が明らかに枯渇。私も参加した過去3大会（02年、06年、10年）のチームと比べても、それは明らかだ。
今大会のパフォーマンスから、将来への明るい材料を探すのは難しい。ただ、ネイマールが遠からず世界ナンバーワン選手と成れる能力と精神力を発揮し、Ｔ・シウバとＤ・ルイスが揃っていれば守備は強固だった。更に、前回大会の準々決勝で敗戦に繋がるミスを犯したＪ・セーザルの復活は、かつてのチームメイトとして非常に嬉しかった。
現セレソンは伸びしろを残した選手が多いが、ＧＫ、右ＳＢ、ＣＦなどは世代交代が必須。更に攻撃的ＭＦにクラッキを輩出することが、ブラジル・フットボール復活の最低条件となるだろう。
《ワールドサッカーダイジェスト：2014.8.7号_No.416_記事》
{{月２回刊：第１・第３木曜日発売＿全国書店・コンビニ}}
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