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FRANCE スモールクラブのロビン・フッド [THE JOURNALISTC]

リーグ・アン  《フランソワ・ヴェルドネ記者》
フランス代表のスター選手を息子に持つだけではない。自身もロリアンの指揮官として、確固たる評価を勝ち得ているクリスティアン・グルキュフ。何者にも屈服しない強い反骨精神は、あのロビン・フッドを想起させる。

僅か4年で6部から2部 更に1部に定着させる
国際的な知名度は息子ヨアンに及ばないが、フランス国内でのグルキュフ監督の評価は非常に高い。心優しく、気骨のある人間的魅力も、人々の尊敬を集める理由だ。
【グルキュフ親子と言えば、現在25歳になる息子、ヨアンのほうが世界的には有名だろう。フランス代表で28キャップ・4ゴールの実績を持ち、昨夏にはクラブ史上最高額となる2400万ユーロ(約28億8000万円)でリヨン入りしたハンサムガイ。20歳の時に、イタリアの名門ACミランに引き抜かれるなど、その才能は早くから評価されていた。
 しかし、ボルドーを経て移籍したリヨンでは、左足のくるぶしに負った怪我の影響もあり、入団以来、まったく精彩を欠いている。ロラン・ブラン監督(現フランス代表監督)の下、眩い輝きを放っていたボルドー時代の雄姿は、今や見る影もない。
 これに対してヨアンの父、クリスティアン・グルキュフ(56歳)は、国際的な知名度こそ高くないが、ここフランスでは経験豊富な監督として一目置かれる存在だ。8年前に古巣ロリアンに戻って来てからというもの、このフランス北西部のスモールクラブで毎シーズンのようにミラクルを起こし、指導者としての評価を高めている。
 フランスで長期政権を築いた監督と言えば、40年以上に渡りオセールを指揮したギ・ルーが有名だが、この名伯楽が2005年に勇退して(07-08シーズンに1カ月余り、RCランスの監督を務めた)からは、グルキュフがその代表格と見なされている。ロリアンを率いるのはこれが三度目で、“メルリュ”(訳者・注:ロリアンのあるブルターニュ地方の沿岸で獲れるタラ科の魚で、クラブの愛称。クラブロゴにはこの魚が描かれている)の指揮官としてのキャリアは、合計で22年に及ぶ。
( ー 中 略 ー )
 特筆すべきは、初めて監督を引き受けた82年当時に、6部に相当するディビジョン・ドヌールに落ち込んでいたチームを、僅か4年でリーグ・ドゥ(2部)まで引き上げ、更に第2次政権時代の98-99シーズンにトップリーグにまで導いたことだ。現在の第3次政権に入ってからは、チームをリーグ・アンに定着させるとともに、ショートパス主体の確固たるスタイルを植え付けることに成功している。】

弱者の立場で物事を見つめ 大衆の一員であり続ける
カネにまみれたこの無機的な業界にあって、グルキュフは稀有(けう)な理想主義者であり、その頑固さは相当なものだ。資金力に乏しい恵まれない環境下でも、美しいプレーを追求し、理想の実現のためにあらゆる努力を惜しまない。
 興味深いのは、そんな指揮官に率いられたロリアンが、カタール王族の莫大な資金を元手に大型補強を敢行したパリ・サンジェルマン(以下PSG)を、リーグ・アンで唯一、破っている(1-0)ことだ。・・・(略)・・・。してやったりのグルキュフは、試合後の記者会見で得意気に語っている。
大金を注ぎ込んでビッグネームをかき集めたからといって、必ずしも勝てるわけではない。今日、我々はそのことを証明してみせた
 煌びやかな衣装で飾り立てた首都のクラブに対し、グルキュフはカネが全てではないと、アンチテーゼを投げ掛けたのだ。
何よりも私は、美しいプレーに価値を見出す。そして我々は、美しさを追い求めながら、ここリーグ・アンで存在感を示したいと思っている。どうやらこの世界では、カネこそが全てと考えられているようだが、私は既成概念や定説といったものを打ち破るのが大好きなんだ
 こうした発言は、何もPSGだけを攻撃するものではない。カネに飽かせた派手な補強に踊らされ、必要以上に騒ぎ立てるメディアを痛烈に批判してもいる。彼の言葉の裏には、カネにモノを言わせて大物を買い漁るのは、真の補強ではないという皮肉が込められているのだ。
 事実、グルキュフは限られた資金を効果的に使い、チームを強化する術を心得ている。「日曜日のマルシェ」(訳者・注:日曜日に開催される青空市場を巡って、必要なものを一つひとつ買い揃えていく行為)宜しく、本当に必要で、しかも高品質の素材を厳選し、買い揃えていくわけだ。こうしてロリアンに入団した選手達は、グルキュフの下で歳月をかけて才能を磨き、一人前の選手に育っていく。
 その中には、後にビッグクラブに引き抜かれたタレントも少なくない。現にこの夏にも、複数のビッグクラブがロリアン詣でを敢行し、活きの良いメルリュを競り落としていった。
 その代表格がケビン・ガメイロだろう。昨シーズンにリーグ2位の22ゴールを挙げたフランス代表FWは、PSGに1100万ユーロ(約13億2000万円)で買い取られた。グルキュフがこの小兵戦士(1㍍72㌢)の才能を見抜き、ストラスブールから獲得したのは3年前のことである。
( ー 中 略 ー )
 ロリアンの指揮官は、己の信念を曲げない気骨のある男だ。金持ちを蔑(さげす)み、大衆の代表者であるかのように振る舞うその姿は、どこかロビン・フッドを想起させる。カネに侵された盲目の王国にあって、彼は自分の価値観でのみ動く片目の王様なのだ(訳者・注:「盲目の王国では、片目しか見えなくても王様」というフランスの諺から)
( ー 中 略 ー )
 常に弱い者の立場で物事を見つめ、大衆の一員でありたいというスタンスは、グルキュフが若い頃から持ち続けている人生観に基づいたモノだ。選手兼任で監督を務めていた頃には、サッカーと並行し、元々の職業だった数学教師の仕事にも従事していた。これは経済的な理由以上に、一般社会との接点を持ち続けたいという気持ちと、教育の現場から離れたくないという思いからだった。
 グルキュフとは、ブルトン語(訳者・注:かつてブルターニュ地方で用いられていた言語)で「親切な男」という意味だが、彼はまさに気さくで庶民的な男である。私自身、そんな人柄に直に触れた経験がある。あれは98年だから、もう13年も前のことだ。
 私は同僚の記者やカメラマンと共に、リーグ・アン初昇格を決めたばかりのロリアンの取材に出掛けた。この時、監督のグルキュフは我々を自宅に招き入れ、当時11歳だった息子ヨアンの宿題を見てやりながら、自らが実践しているトレーニング法を事細かに解説してくれたのである。
 勿論、あの時、父親の横にちょこんと座り、その言葉に熱心に聞き入っていた勤勉そうな少年が、後にフランスを代表するスター選手になろうとは想像ダにしていなかったが___。

学生時代から親交のある ヴェンゲルとの信頼関係
グルキュフが発掘し、育て上げ、そして羽ばたいていったタレントは少なくない。今夏にPSGに引き抜かれたガメイロもその一人だ。
ヴェンゲルとは強い信頼関係で結ばれており、ここ数年はアーセナルとの間で難件もの取引が成立している。
指揮官グルキュフの一番の強みは、飽くなき探究心だろう。長期の休みが取れると、お忍びで旅に出掛け、世界のあちこちから様々なアイディアを調達してくる。例えば、自身が愛して止まないブラジル・フットボールの真髄を探るべく、南半球のこのサッカー王国にまで何度足を運んだか知れない。また90年代には、ミラノに出向いてアリーゴ・サッキ(当時のACミラン監督)のトレーニングを食い入るように見つめ、ファビオ・カペッロ監督時代のレアル・マドリーの練習にも視察に訪れたことがある。
 こうした探究心の強さは、親交の深いアーセン・ヴェンゲルと通じる部分があるだろう。ふたりはグルキュフが大学のフランス選抜だった70年代からの付き合いで、当時ヴェンゲルもストラスブール大学で経済学を専攻する学生フットボーラーだった。その後は別々の道を歩むこととなったが、きっとウマが合うのだろう。今でも公私に渡る付き合いが続いている。
( ー 中 略 ー )
 この件だけではない。ロリアンがリーグ・アンで結果を残し始めた数年前からは、ふたりは頻繁に仕事上でも接点を持ち、アーセナルとロリアンとの間ではいくつもの取り引きが成立している。
 例えば昨夏には、ロリアンの守備の要だったCBロラン・コシエルニーを、アーセナルが1100万ユーロで獲得。そしてそのお返しとばかり、ガンナーズは若いフランシスコ・コクランを、ロリアンに1年ローンで差し出している。
( ー 中 略 ー )
 ヴェンゲルはこの夏にも、コスタリカの俊英ジョエル・キャンベルを、レンタルでグルキュフに託した。今夏のU−20ワールドカップで見初め獲得したものの、英国が定める労働ビザ発給の基準に満たないため、当面、ロリアンという“保育所”に預けることにしたのだ。このカリブ海の将来性豊かなアタッカーは、リーグ・アン9節のヴァランシエンヌ戦で初先発すると、22分に鮮やかな先制ゴールを決め、チームの勝利に大きく貢献している。
 ジェレミー・アリアディエールをグルキュフに託したのも、ヴェンゲルの信頼の表れだろう。
( ー 中 略 ー )
 グルキュフとヴェンゲルは、良く似たフットボール観を持っている。どちらもテクニックを重視し、美しいプレーを好む。共感し合える部分が多々アルからこそ、これだけ深い信頼関係を築けているのだろう。
 既にリーグ・アンはシーズンの4分の1を消化しようとしているが、グルキュフ率いるロリアンは6位と好位置に付けている。
( ー 中 略 ー )
 オフェンスを支えていたガメイロとアマルフィターノの両主軸を失い、開幕前には誰もが、「苦戦は免れまい」と予想していたが、ここまではその下馬評を覆す上々の結果である。この調子で行けば、リーグ・アン最大のサプライズになるかも知れない。ブルターニュ沿岸の海流には、どうやら今シーズンも警戒が必要なようだ。】 《この項・了》




《ワールドサッカーダイジェスト:2011.11.3号_No.350_記事》
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