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サムライ達の挑戦_第1回*宮市 亮* [ダイジェスト特別版]

[サッカー][目] [耳]
世界で戦う“日本人”をクローズアップ その軌跡を追い、可能性に迫る...
*ついに踏み出した18歳の第1歩*
世界の舞台で戦う日本人の挑戦に迫る新連載。記念すべき第1回で取り上げる“サムライ”は、紆余曲折の末、ついにアーセナルでの第1歩を印した宮市亮だ。デビューまでの経緯を振り返りながら、18歳の可能性を探る。
[宮市亮(みやいち・りょう):1992年12月14日生まれ、愛知県岡崎市出身。中京大中京高校から、日本のプロクラブを経ずに2010年12月、イングランドの名門アーセナルと契約した超逸材。快足を活かしたドリブルが持ち味のウイングで、近未来の主力としてアーセナルのヴェンゲル監督もその才能に大きな期待を寄せている。高校2年の09年にUー17ワールドカップに出場。ブラジル・ワールドカップ予選を戦うA代表への招集が期待されている。身長1㍍83㌢・体重71㌔。]

[ ヴェンゲルが自ら足を運び ]
【「夢だったエミレーツ・スタジアムでプレーできました。内容には満足していないけれど、まずはスタートラインに立てた。ここからがスタートです」
 18歳の宮市亮が、アーセナルで記念すべき第1歩を印した。シュルーズベリー(FL2=実質4部)を本拠地エミレーツに迎えたカーリングカップ3回戦。この試合でベンチに入った宮市は、72分、韓国代表のキャプテンでFWのパク・ジュヨンとの交代で念願の舞台に立った。サポーターから、「リィーオー(リョウ)、リィーオー」の大声援が上がり、スタジアム中が沸いた。ただ、当人はそれが耳に入らないほど緊張していたという。
 ファーストタッチは出場から3分後。4ー2ー3ー1の2列目左サイドに入った宮市は、センターライン手前でパスを受けると、スピードを活かした得意のドリブルでペナルティーエリアまでボールを運んだ。「自分の持ち味であるドリブルを見せないといけないな、と。仕掛けることを考えていました」とは、試合後の本人の弁だ。
 ゴールに絡む活躍は出来なかった。だが、アーセナルで新たなキャリアをスタートさせたその事実が、大きな意味を持つモノだった。
「ここに立つまで時間がかかった」
 本人が語るように、2011年1月の入団発表から公式戦デビューまで、実に8カ月半という長い時間がかかった。宮市が直面した最大の壁が、英国の労働ビザの問題だった。ホームオフィス(英国内務省)はサッカー選手へのビザ発給に関して明確な基準を設けており、EUのパスポートを持たない選手は、「直近2年間の国際Aマッチに75㌫以上出場しなければならない」。宮市はこの条件を満たせず、労働ビザを取得できなかったのだ。ビザがなければリザーブリーグの試合にも出場できないため、アーセナルをいわば素通りしてフェイエノールト・ロッテルダムへとレンタルで移籍。オランダで武者修行をすることになったのだった。ただ、レギュラーとして12試合に出場し、3ゴールの活躍を見せたエールディビジでの半年間は、結果的に極めて有益な半年間となった。
 オランダでの成長ぶりに手応えを感じたアーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督は、今シーズンから宮市をチームに呼び戻すことを明言し、ビザ発給に手を尽くした。自ら関係各所に当たり、宮市の優れた才能を力説した。この指揮官の働きかけが功を奏し、宮市は「特別な才能を有する若手選手」として認められ、特例で労働ビザの発給が決定。晴れてアーセナルの一員となったのだった。
「プレーのクオリティー、スピード、試合や練習に取り組む姿勢。宮市には非常に良い印象を持っている。試合の流れを素早く読み取る力があり、闘争心も兼ね備える。右サイドにウォルコット、左サイドに宮市を置けば、あらゆるディフェンスを震え上がらせることができる」
 多少のリップサービスが含まれているとはいえ、若手の発掘・育成に定評のあるヴェンゲル監督の「宮市評」は驚くほど高い。その一方でフランス人指揮官は、
まずは彼に時間を与えたい。素晴らしい選手であることは確かだが、過剰なプレッシャーをかけるべきではない。一歩一歩成長して行って欲しいので、余り急がせたくない
 とも話し、即戦力ではなく、長い目で成長を見守る方針を示している。少なくとも今シーズンはプレミアリーグの水に慣れる試用期間として、飛躍のための土台を築く...。ヴェンゲルはそんな青写真を描いているはずだ。

[ 「リョウを気に入っている」 ]
宮市にとって何より心強いのが、ヴェンゲル監督の存在だ。英語で分からない場合は日本語での直接指導がアルという。
【期待の視線を注いでいるのは、チームメイトも同様だ。
リョウの事は凄く気に入っている。努力を惜しまず、ボールテクニックも十分。ドリブルも大きな武器だ。僕は100㌫、彼がここで素晴らしいキャリアを築いて行くと確信している
 そう称賛するのは、新キャプテンのロビン・ファン・ペルシだ。スピード自慢で持ち味が宮市と似通い、ポジションを争うライバルとも位置付けられるセオ・ウォルコットも、
「自分らしさを追求して欲しい」
 とエールを贈る。
 宮市が持つ大きな才能は、「荒削りな印象はあるが、ポテンシャルの高さは十分に感じられた」と評した『デイリー・ミラー』紙のジョン・クロス記者の言葉からも分かる。シュルーズベリー戦を取材したクロス記者は、
スピードがあって、テクニックもある。ディフェンスに戻るディシプリンも確認できた。個人的な考えでは、プレミアリーグで通用する素質はアルと思う。声援の大きさでファンの期待も分かったし、悪くないデビュー戦だった
 と好意的な印象を語った。大手通信社『プレス・アソシエーション』のジム・ファン・ヴィーク記者も、
オランダでのプレーも見ていたが、スピードとインテリジェンスを兼ね備えた、優秀なアタッカーという認識は変わらない。チェンバレン(今夏に加入した18歳のイングランド人ウイング)同様、磨けば光る逸材だ
 と、近い将来の活躍に期待を寄せている。最も、コンビネーションやコミュニケーションが深まれば、近未来と言わず今シーズン中に驚きを提供する可能性もあるだろうが、クロス、ファン・ヴィークの両記者とも、
カーリングカップを中心に実戦経験を積み、まずはイングランド特有の展開の速さに慣れるべきだ
 と口を揃え、当面は基礎固めに集中すべきだとの見解で一致する。
 宮市の成長に、ヴェンゲル監督が大きな役割を果たして行くことは、言うまでもないだろう。人材育成に長ける指揮官は、これまで幾多の若手をトッププレーヤーに育て上げて来た。現在のスカッドを見ても、ウォルコット、アレクサンドル・ソング、アーロン・ラムジー、キーラン・ギブス、そしてジャック・ウィルシェアが、大きく羽ばたいている。
 宮市にとって何より心強いのは、ヴェンゲルが“日本通”だということだ。名古屋グランパスの監督時代に覚えた日本語のフレーズを駆使して、トラップの仕方や身体の入れ方など、直々に指導して行く考えだという。宮市は非常に恵まれた環境に身を置いているだろう。
プレミアリーグはそんな簡単に通用しないと感じていますし、そうあって欲しいと思っています。将来的にアーセナルの主軸として活躍できるよう、そこを目指してやって行きたい
 デビュー戦を終えた宮市は、目を輝かせながらこう決意を述べた。栄光までの道のりは、長く入り組んだ永遠の坂道。18歳の挑戦が、今、ここに始まった。



《ワールドサッカーダイジェスト:2011.10.20号_No.349_記事》
{{月2回刊:第1・第3木曜日発売_全国書店・コンビニ}}




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