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ENGLAND 不幸な結末が避けられない結婚か [THE JOURNALISTC]

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プレミアリーグ  《オリバー・ケイ記者》
2試合連続ゴールなど復調傾向にあるとはいえ、かつての凄みを取り戻すのは難しいだろう。後先を考えずに、勢いで一緒になったトーレスとチェルシーの“ショットガン・ウェディング”は、不幸な結末が避けられないか。

「1.56試合に1ゴール」が 「2.96試合に1ゴール」に
【フットボール界には、こんな格言がある。選手が調子を崩した際に使われるフレーズだ。
フォーム(調子や状態)は一時的なモノ。クラス(才能やクオリティーの意)は永遠のモノ
 果たして、本当だろうか。本当に、クラスは永遠のモノなのか。
 そもそも、スポーツの世界に絶対はない。どんなに素晴らしい選手でも調子の波がある。3週間、あるいは3カ月といったスパンでのスランプは、誰もが経験しているはずだ。そしてその状態が、半年、1年、あるいは2年と長期に渡ったとしたら、どうだろう。そう、フェルナンド・トーレスのように___。
 クラスは決して永遠のモノではない。もしそうなら、ロナウドも、アンドリー・シェフチェンコも、マイケル・オーウェンも、ずっとトップレベルで活躍を続けていたはずだ。怪我は、クラスを損なわせるひとつの大きな要因だ。環境も同様だ。自分に合わないチームに移籍して、本来の輝きを失った選手は少なくない。そうして自信を喪失し、坂道を転がり落ちて行くのだ。一度失われた自信を取り戻すのは、極めて難しい。この悪循環にハマり、岐路に立たされているのが、トーレスだろう。
 今から2年前、トーレスは間違いなく世界の五指に入るプレーヤーだった。リオネル・メッシ、クリスチアーノ・ロナウド、シャビ、カカと並んで、フットボール界の頂点に君臨していたはずだ。今、世界のトップ5を挙げるとすれば、こうなるだろう。メッシ、C・ロナウド、シャビまでは一緒で、4人目はアンドレス・イニエスタ、5人目は迷うところで、ダビド・ビジャか、あるいはウェイン・ルーニーか。間違いなく言えるのは、トーレスはカカと共にトップ5から外れるということだ。
 勿論、トーレスが捲土重来を果たす可能性は十分にある。この雑誌が読者の手に届く頃には、卓越したゴール感覚を取り戻し、量産態勢に入っているかも知れない。事実、プレミアリーグ5節の、マンチェスター・ユナイテッド(以下ユナイテッド)戦で今シーズンの初ゴールを決め、続くスウォンジー戦でもネットを揺らした。
 それでも、私はトーレスの完全復活には懐疑的だ。少なくともリバプール時代の凄みは取り戻せないだろう。わけても、アンフィールド(リバプールの本拠地)での最初の2シーズンの、あの素晴らしいパフォーマンスは、もう二度と見せられないだろう。
 数字には、斜陽傾向が明らかだ。2007年のリバプール加入から09年9月までの2年強の間、トーレスは92試合(うちスタメン81試合)で59ゴールを奪っている。1.56試合に1ゴールというアベレージで、ざっと3試合に2ゴールを決めていた計算だ。それが、74試合(スタメン60試合)で25ゴール、2.96試合に1ゴールと、09年10月以降、成績が急降下している。11年1月のチェルシー移籍後は、25試合で3ゴールと目も当てられない体たらくだ。
 切っ掛けは、怪我だった。スペイン代表の合宿中(09年9月)にトーレスは股関節を負傷し、そこから泥沼に入って行くのだ。】

スタイルにマッチしていた 当時のリバプールは理想郷
●無人のゴールに流し込むだけのシュートを外したトーレス。今シーズン初得点を奪ったユナイテッド戦で印象付けたのは、むしろ...。
●ジェラードやシャビ・アロンソという好パサーに恵まれ、ファンからも愛されたリバプール時代が華だった。
【前述したように、待望久しかったチェルシーでの2点目を、トーレスはユナイテッド戦で決めた。敵地オールド・トラフォードでのそのゴールは、実にトーレスらしい得点だった。・・・(略)・・・。
 それでも、復活の狼煙が上がったとは思えなかった。後半開始早々のこのファインゴールよりも、ガラ空きのゴールへのシュートを外したその後の失態が、頭から離れなかったからである。あれは信じられないミスだった。
 83分のシーンである。1点目と同様、鋭い動き出しでマーカーのフィル・ジョーンズを振り切り、ラミレスのスルーパスを呼び込むと、今度はデ・ヘアを左にかわす。後は無人のゴールに流し込むだけの超イージーシュートを、トーレスはあろうことか外したのだ。デ・ヘアをかわした際にバランスを崩し、左足でのフィニッシュは左に大きく逸れていった。
 トーレスの左足は、確かに利き足ではない。だが、それは言い訳にはならない。なりようがない。タッタ5㍍先の無人のゴールに流し込むのに、利き足も何も関係ない。詰まるところ、トーレスは不振から抜け出せてはイナイのだ。でなければ、アンナ簡単なシュートを外すわけがない。
 厄介なのは、前述した典型的な負のスパイラルに、トーレスがハマり込んでしまっていることだ。怪我でフォームを崩し、チェルシーという自分と合っていないチームを新天地に選び、そして自信を失って行った。
 彼が移籍問題で揺れていた最中に、リバプールのコンタクト(情報源)と交わしたこんな会話を思い出す。トーレスはフォームを取り戻せるだろうかという私の問い掛けに、彼はこう答えた。
「どうだろうな。メンタルとフィジカルの両側面があるけど、まず怪我が大きいな。スピードが武器の選手にとって、これは無視できない問題だよ。ただ、それよりもフェルナンドにとって大きな試練は、自信を取り戻せるかだ。最近の彼は、幸せなフットボーラーの姿には見えないしね。残留するにしても、移籍するにしても、自分の強みを活かしてくれるチームじゃないとダメだろうね。チームメイトや監督、ファンの全面的なサポートが不可欠だ」
 それから2カ月後、5000万ポンド(約70億円)という巨額と引き換えに、トーレスはリバプールからチェルシーへ移籍した。果たしてチェルシーは、コンタクトが挙げた条件を満たす新天地なのかと、私は訝(いぶか)った。
 自らのプレースタイルとの相性で言えば、リバプールはベストマッチだった。ハイテンポなフットボールはトーレスのスピードを引き立て、シャビ・アロンソ(現レアル・マドリー)やスティーブン・ジェラードからタイミング良く送られるスルーパスは、トーレスには何よりのご馳走だった。快足を活かして裏に抜けたがるストライカーにとって、当時のリバプールはまさに理想郷だったのである。
 しかも、クラブに関わる全ての人間がトーレスを絶対的なスーパースターとして扱い、リスペクトを寄せていた。ピッチではチームメイトが彼の為に汗をかき、スタンドでは忠実なサポーターが無条件の愛を注いだ。

選んではいけないチームを 選んだ自分を責めるべきだ
ランパードをスタメンから外すなど、大鉈を振るい始めたヴィラス・ボアス。トーレスにとっては朗報だ。
翻って、チェルシーではトーレスの味方になるモノが見当たらない。
 カルロ・アンチェロッティ前監督が志向していたのは、ポゼッションを重視したパスフットボールだった。しかも、ディディエ・ドログバという絶対的なエースがいれば、フランク・ランパード、ジョン・テリーという絶対的なチームリーダーがいた。
 シーズンが変わり、指揮官もアンチェロッティからアンドレ・ヴィラス・ボアスに代わったが、ポゼッションを重視した基本スタイルは変わらず、主軸も健在。トーレスの置かれた状況が改善されることはなかった。
 チェルシーでの居心地の悪さは、誰よりもトーレス自身が痛切に感じている。地元スペインのメディアとの最近のインタビューで、フラストレーションを言葉にしたのだ。
プレーがスローなんだ。何故かって、そういう選手が揃っているから。年を取って、とてもスローなプレーヤーがね。テンポが遅く、ポゼッションばかりする。それでチーム全体もスローになる。それが問題。今はその改善に努めているところだ
 越えてはいけないラインを越えた発言だろう。名指しこそしていないが、特定のチームメイトを責めているし、何よりチェルシーというチームそのものを否定する内容だからだ。ポゼッションスタイルで、彼らは数々の栄冠を手にして来たのだ。自身の不出来を棚に上げたチーム批判と受け取られても仕方ないだろう。
 トーレスが責めるべきは自分自身だ。チェルシー移籍を決断したのは誰でもない、自分自身なのだから。よりによって、最も選んではいけないチームを選んだというわけだ。
「ショットガン・ウェディング(訳者・注:娘の父親が相手の男にショットガンを突き付けて結婚を迫る、というのが原義)」という言葉があるが、私はトーレスとチェルシーの関係はまさしくショットガン・ウェディングだったと思う。後先を考えずに、勢いで一緒になったのがこの両者だったのだ。
 この結婚に再考を促す人物はいなかったのか。
 残念ながらいなかった。その当時、チェルシーの現場は完全に統制を失っていた。・・・(略)・・・。
 一方のトーレスも、移籍志願を公言したリバプールから、一刻も早く離れたいという思いでいた。
 いずれにしても、トーレスとチェルシーの結婚は不幸な結末が避けられないのではないか。トーレスがトップフォームを取り戻す可能性は皆無とは言わないまでも、チェルシーではその可能性は限りなくゼロに近いのではないだろうか。理由は、これまで述べてきた通りだ。トーレスにとって、余りにも負の条件が重なり過ぎている。あるいは、リバプールに残っていた方が、未だ復活はあり得たのではないか。ルイス・スアレスとは相性も良さそうだ。
 ここで、再び格言に戻る。「フォームは一時的なモノ、クラスは永遠のモノ」は、こう修正すべきだろう。フォームを崩せば自信を失い、クラスが損なわれる___。
 トーレスがこの新たな格言に該当していないことを願うばかりだが、仮にそうだったとしても、彼が最初の該当者というわけではない。】 《この項・了》



《ワールドサッカーダイジェスト:2011.10.20号_No.349_記事》
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