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SPAIN フットボールを後世に残すために [THE JOURNALISTC]

[サッカー][目] [耳]  [手(チョキ)]
リーガ・エスパニョーラ  《ヘスス・スアレス記者》
恐れていたことが、今現実になろうとしている。老若男女を問わず、ファンのフットボール離れが深刻化しているのだ。TV放映権料の不公平な分配方法に、選手の給料未払い問題...。解決を急ぐべき問題が山積している。

スペインで急速に進行する 若者の“フットボール離れ”
私の息子のガブリエルは、今年で26歳になる。バルセロナで暮らす彼はロックバンドを組み、ギタリストとして演奏しながら、作詞作曲にも懸命に励んでいる。
 ガブリエルは幼い頃からフットボールに慣れ親しんできた。父親が少年チームを指導していたことや、私の友人であるフラン・ゴンサレスやホセ・ラモン(共に元デポルティボ・ラ・コルーニャの選手)といったプロのフットボーラーの存在を身近に感じながら育ったことも、多分に影響していたのだろう。
 また、未だ幼かった頃には、試合会場やインタビュー取材の現場にも息子を連れて行き、アリーゴ・サッキ(元アトレティコ・マドリー監督)、フェルナンド・レドンド、グティ(共に元レアル・マドリー)、ファン・カルロス・バレロン(現デポルティボ)など、多くの選手や監督に紹介して回った記憶がある。
「親バカだな」
 そう思われるかも知れない。いや、実際にそうだったのだろう。ただ、私がそうした行動を取った一番の理由は、兎に角人間を成長させてくれるこのフットボールというスポーツを、息子にも心から愛して欲しかったからだ。その切なる思いは、フットボールを深く愛する多くの親達が抱く、当然の感情と言えるだろう。
「おい、坊主はデポルティボのファンなのか? この俺様にサインをねだるくせに。早いところ、セルタのファンになっちまえよ(笑)」
 セルタに在籍していた当時のミチェル・サルガド(現ブラックバーン・ローバーズ)にそうからかわれながら、それでも頑なにデポルのファンだと言い張っていた息子の姿を、愛おしく思いながら見ていたものである。
 ガブリエルはその後、音楽に目覚めたこともあり、フットボールの選手にはなれなかったが、そんなことは問題ではなかった。彼がフットボールを好きになってくれたことが、私は何より嬉しかった。
 ところが、その息子が最近になってこう愚痴るようになったのだ。
父さん、近頃のフットボールはどうしちゃったんだい? あまりにつまらなくて、なんだか日増しに嫌いになっているような気がするよ
 父親として、これほど悲しい言葉がアルだろうか!!
 しかし、これはガブリエルに限った話ではなかった。スペインでは今、若者達の間で、“フットボール離れ”が急速に進行しているのだ。

クラブ首脳は選手達を “商品”と勘違いしている
戦力の上積みが可能なのは2強だけだ。今や「売らずには買えない」のが当たり前で、アトレティコも主力の売却に踏み切っている。
【最も、フットボールに興醒めしているのは若い世代だけではなく、昔からのオールドファンも同じだ。
「金を持っている奴が強い。そんな弱肉強食の世界を、わざわざ金を払って見る必要はないだろう。そんな話、どこにでも転がっているんだからな」
 どちらが勝つか分からない...。そのスリル感こそ、フットボールの醍醐味だった。しかし、いつの間にかリーガのピッチでは、強い者が弱い者をいたぶるだけの戦いが繰り広げられるようになっている。
 バルセロナとマドリーは、TV放映権料を牛耳ることで、他を大きく引き離すほどの強さを手に入れた。高額なスター選手の獲得に全力を注ぐ2強と、補強費を捻出するためにエース級の選手の売却に踏み切らなければならないその他のクラブ。現時点でそれほどの差が、既に生まれつつあるのだ。
 アトレティコはこの夏、ついにセルヒオ・アグエロとディエゴ・フォルランの2大エースの売却に踏み切り(前者はマンチェスター・シティ、後者はインテル・ミラノへ)、バレンシアはファン・マヌエル・マタ(チェルシーへ)、ビジャレアルはサンティ・カソルラ(マラガへ)と、チームの中心選手をそれぞれ手放している。
 未だ1試合を消化したところだが、リーガの優勝争いは事実上、2強に絞られたと言っていいだろう。これまでも、バルサとマドリーは国内のタイトルを分け合う抜きん出た存在だったが、それでも他のクラブとの間にここまでの実力差が付いたことは一度もない。開幕ゲームはどちらも5点差以上を付けての圧勝。これでは、大衆の興味が薄れたとしても不思議はないだろう(編集部・注:開幕戦となった第2節、マドリーは敵地でサラゴサに6ー0、バルサはホームでビジャレアルに5ー0の勝利を飾っている)
 また、開幕前に起きたストライキ騒動が、ファンのフットボール離れを助長したのも事実だった。
 8月25日、AFE(スペイン・プロサッカー選手組合)とLFP(スペイン・プロリーグ機構)は条件面で合意に達し、リーガ・エスパニョーラは1週間遅れで開幕することになった(編集部・注:リーガは2節からスタート。1節のゲームは2012年1月21〜22日に延期選手の未払い給料の補填金は満額ではなかったようだが、新協定には、「3カ月未払いが続いた場合は自由契約になれる」という保証が盛り込まれたという(新協定の細かい内容は明らかにされていない)。
 ストライキは一応の解決を見たが、金とフットボールの現実を突き付けられたサポーターの多くは、試合観戦に嫌気を起こしている。
 そもそもフットボールの主役であるはずの選手が給料未払いに苦しむなど、絶対にアッテはならないのだ。クラブは選手を商品か何かと勘違いしているのか、兎に角扱いが雑過ぎる。
 ドイツやイングランドで、同様の問題が噴出していない以上、各クラブの首脳が世界的な経済不況を言い訳の盾に使うのは間違っているし、目先の銭に翻弄されル歪んだ資本主義は、リーガ・エスパニョーラの土台を揺るがしかねない。
 リーガ・エスパニョーラの放映権を持つ「 Gol TV 」とLFPは、2節のアトレティコ対オサスナ戦のキックオフ時間を、昼の12時に設定した。改めて説明するまでもないが、この時間はスペインのフットボールタイムではない。アジア各国のゴールデンタイムに合わせて、試合時間を定めたわけだ。あまりに開き直ったこの儲け優先主義には、もはや開いた口が塞がらない(スペインの12時は日本や韓国の19時)。
 またLFPは、今シーズンから国内の民放ラジオ局に対し、放送権料(ラジオ放送のためのライセンス料)として1500万ユーロ(約18億円)を要求している。これはいわば、新聞記者がお金を払って試合を取材するようなもの。勿論、ラジオ局側が応じるはずもなく、その結果、開幕ゲームとなった2節の試合では、スペイン・フットボール史上初めて、ラジオ局の記者がスタジアムから締め出しを食らうという、由々しき事態に陥っている。

目先の金儲けだけでなく 未来も真剣に考えるべきだ
ラジオのフットボール中継は、スペイン国民の間で高い人気を誇る。最良の解決方法が見つかることを願いたい。
まずはTV放映権料の分配方法を見直すべきだろう。公平性を欠けば、いかに見事な勝利でも素直に称賛するのは難しい。
スペイン・フットボールのメディアの根幹を担っているのは、新聞でも雑誌でもTVでもなく、ラジオである。スタジアムでは多くのファンがラジオで他会場の戦況を聞きながら、目の前の試合を観戦している。それはもはや、この国に根付いた観戦スタイルのひとつと言ってもいい。また自宅やタクシーでは、必ずと言っていいほどラジオからフットボール中継が流れており、多くのフットボール愛好家がその娯楽を享受してきたのだ。
 経済的な理由でTVを満足に見られない人がいる。TVは持っていても、有料の衛星放送と契約できない家庭も少なくない。誤解を恐れずに言えば、ラジオは弱者の味方だったのだ。
「身体が不自由だったり目が見えない人達の中にも、俺達の番組を楽しみにしてくれているリスナーがいるそうだ」
 私はそんな話を、一緒にラジオ番組を担当している記者から聞いたことがアルが、ひとりのラジオパーソナリティーとして、その言葉にどれほど励まされたか分からない(編集部・注:ヘスス・スアレス氏は、地元ラ・コルーニャのラジオ局でサッカー番組のパーソナリティーを務めている
 ラジオ局が莫大な放送権料を支払うのは、正直難しい。スポンサーを見つけるのは困難だし、そもそもラジオ局の記者達の給料は、たかが知れたものなのだ。
 苦肉の策として、自らチケットを買い、観客席から放送することはできるだろう。実際『カタルーニャ・ラジオ』は、バルセロナ対ビジャレアル戦にチケットで入り、スタンドから放送していた。だが、それをやってしまっては、何の解決にもならない。現在は各ラジオ局が協定を結び、政府の協力を仰ぎながら、LFPの決定に抗議しているところダが、9月上旬の現時点で解決の糸口は見えず、暫く尾を引きそうな気配だ(編集部・注:2節のゲームでは、多くのラジオ局がTV画面を見ながらの中継を余儀なくされている
 私は息子と同世代の若者達や、更にそれに続く世代にも、フットボールを愛してもらいたいと思っている。しかし、現在のような状況が長く続けば、間違いなくフットボール離れは進んで行くだろう。
 今シーズン、デポルティボが2部に降格したことで、奇しくも宿敵セルタとのガリシア・ダービーが、久々に実現することになった。我々ガリシア人にとって、その戦いが持つ意味は大きい。私自身もガリシアのクラブに在籍し、州リーグや地域リーグのタイトルを争っていた時は、僅か数百人の観客とはいえ、凄まじい熱気を感じたものである。負けられない試合にどう挑むか、フットボールはそんなことも教えてくれたモノだ。
 いかにフットボールを未来に伝えて行くか。リーガの関係者は目先の金儲けだけでなく、そうしたことも真剣に考えるべきだろう。そのためにはまず、TV放映権料の平等化を実行に移さなければいけないし、選手の給料の支払いを保証するのは当然で、またラジオの問題も解決させなければならない。
 誰もが楽しめるスポーツとしてのフットボールを後世に残して行く。その使命を、我々は決して忘れてはならないのである。】 《この項・了》



《ワールドサッカーダイジェスト:2011.10.6号_No.348_記事》
{{月2回刊:第1・第3木曜日発売_全国書店・コンビニ}}




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