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フットボールと人種差別(サイモン・クーパーの評論) [世界のサッカー事情]

先進のイングランドに見る 根絶への取り組みと残る課題
暴漢に襲われた黒人が命を落とした93年の事件を切っ掛けに、人種差別撲滅に力を注いで来た英国とイングランド・フットボール。スアレスとテリーの一件を通してその取り組みと課題を浮かび上がらせ、フットボールと人種差別を考える。

※ イングランドに黒人選手が 姿を見せ始めた70年代、 彼らはモンキーチャントと バナナに迎えられた。 ※
○暗黙のウチに黒人に門戸を閉ざしていたかつてのリバプール。バーンズの加入はそれだけで事件だった。
【1993年4月22日、西ロンドンのとあるバス停———。
 バスを待つ当時18歳のスティーブン・ローレンスのもとに、ふたりの若者が近寄って行った。白人のその二人組は、黒人のローレンスに襲い掛かり、ニ度ナイフで刺した。ローレンスは近くの小高い丘まで走って逃げたが、そこで息絶えた
 この事件が起きた週末、私は人で溢れかえったロンドンのパブで、イングランド対オランダ戦を観ていた。イングランド代表のMFで黒人のジョン・バーンズがボールを持つ度に、客のひとりが猿の鳴き真似をした。スーツにネクタイ姿のソの男は、おそらく近くのオフィス街で働く、真っ当なビジネスマンだ。彼が鳴き声を発すると、一緒に飲んでいた同僚達は大声で笑った。
 もし、そこに居た誰かが不快に思い、警察に通報したとしても、警官にはこう言われるのが落ちだっただろう。
「なあ、君にはユーモアのセンスはないのかい?」
 時は流れて、2012年の現在。リバプールのルイス・スアレスはマンチェスター・ユナイテッドのパトリス・エブラに人種差別的な言葉を発したとして、8試合の出場停止処分を言い渡された。チェルシーのジョン・テリーは、同様の発言で訴えられた
 イングランド・フットボールにおける人種差別を理解するためには、93年に戻らなければならない。あの頃のイングランドでは、人種差別はそれこそ、日常茶飯事だった。しかし、ローレンスの死がそれを変えたのだ
 イングランド・フットボールに本格的に黒人選手が登場した70年代、彼らはモンキーチャント(猿の鳴き真似)とバナナで迎えられた(ニック・ホーンビィはその名著『Fever Pitch (邦題:ぼくのプレミア・ライフ』の中で、“エレガントな人種差別者も居たが、彼らは決してスタジアムには姿を現わさなかった”と書いている)。スタジアムのテラス(立ち見席)には、ネオナチの姿さえアッタ。
 リバプールやエバートンのように、いくつかのクラブは白人だけでチームを構成し、それはクラブ内の暗黙の了解でもアッタ。前述したバーンズの87年のリバプール移籍は、それだけで大事件だった。『ガーディアン』紙のデイブ・ヒル記者は、それを題材にした『Out of His Skin』というノンフィクションを上梓(じょうし)している
 80年代の黒人選手は、経済的にも虐げられていた。スポーツ経済学者のステファン・シマンスキーの調べによれば、黒人選手のサラリーは、白人選手のそれより明らかに低く抑えられていた。それでも、実力が同程度なら、多くのクラブは好んで白人を登用した。
 しかし、やがて物事は変わり始める。90年代に入ってから、黒人選手に対する不当な差別は減少していったと、シマンスキーは語る。そしてローレンス事件が英国の社会全体に、人種差別に対する取り組みを促すことになった。警察の初動捜査が甘く、証拠不十分として起訴に持ち込めなかったローレンス殺害の容疑者も、事件から18年を経て裁判に掛けられ、有罪が確定した。この事件は英国の支配階級が持っていた、黒人など有色人種に対する差別意識を変える切っ掛けになったのだった。
 もちろん、人種差別が根絶されたわけではない。現在もそれは残っている。タブロイド紙や一部の政治家は、ジプシーや亡命者、移民を非難し、受け入れようとしない。とはいえ、少なくとも英国で生まれ育った黒人は、英国人として認められるようになった
 フットボールが、こうした社会のポジティブな変化の一翼を担ったのは間違いない。イングランド代表の黒人選手が、スペインやスロバキア、クロアチアなどでのアウェーゲームで人種差別的な野次を受ける度に、デイビッド・ベッカムを初めとする同僚達が立ち上がり、それは卑劣な行為だとメディアを通して非難した。ベッカムら代表の面々は、リベラルな自分達をアピールしたかったわけではない。
「イングランド人はあなた達よりも文化的に洗練されている」と、そう宣伝するつもりもなかった。
 チームメイトを守りたいという一心から、彼らはそうしたのだ。いずれにしても、結果としてイングランド・フットボールは、人種差別への対決姿勢を鮮明にした。】

※ 差別行為の告発が4万件。 こうした意識の高まりは、 ローレンス事件がひとつの 出発点になったと言えるだろう。 ※
○スアレスの厳罰へのリバプールの抗議行動やウルグアイの反応(無実を訴えるスアレスの弁護士)は物議を醸す。
イングランド代表はこうして、“肌の色に捉われないイングランド”というイメージを確立させた。独自の視点でイングランド・フットボールの歴史を紐解いた、デイビッド・ウィナーのノンフィクション、『Those Feet: A Sensual History of English Football』にはこんな場面がある。アジア系英国人が、ロンドン郊外のルートンのとあるパブでイングランド代表の試合を観戦しているシーンだ。「パブは瞬時にして笑顔で溢れ、人々は肩を組んだ。白人、アジア人、黒人がともに、熱く。イングランドの夢に向かって」。
 現在、英国では人種差別に対してどの国よりも厳しい目が向けられている。2011年の1年間で、差別行為の告発が4万件も寄せられたという。こうした意識の高まりは、ローレンス事件がひとつの出発点だった
 昨年10月15日のリバプール対マンチェスターU選での一件、すなわちエブラに対するスアレスの人種差別発言は、英国内で大きく受け止められた。FA(イングランド・サッカー協会)は専門の調査委員会を立ち上げ、真相を糾明。その報告書は115ページに及んだ。それによると、スアレスはエブラを七度に渡って「NEGRO」と呼んだという。スアレスには8試合の出場停止に加え、4万ポンド(約480万円)の罰金が科された
 英語では黒人への差別語となる「NEGRO」は、母国語のスペイン語では差別語には当たらないと弁明したスアレスは、大騒動に発展した事実に当惑気味だった。
 チェルシーでのプレー経験があり、現在はブライトン(2部に相当するFLC)の監督を務める元ウルグアイ代表MF、グスタボ・ポジェを初め多くのウルグアイ人が同胞のスアレスを擁護し、ウルグアイのTV局はこの一件を皮肉的に報じた
 リバプールもスアレスの弁護に回り、FAの処分が発表された翌日、昨年12月21日のウィガン・アスレティック戦で、抗議行動を起こした。ウォーミングアップに出て来た選手全員が、スアレスの姿がプリントされた揃いのTシャツを着ていたのだ。ただ、この行動は物議を醸すこととなった
現役時代に人種差別的な発言を受けた者として、リバプールの選手達があのような形でスアレスのTシャツを着たことを悲しく思う
 80年代にマンチェスターUなどで活躍した黒人のCB、ポール・マグラーはそうツイートしている。
 それに対しリバプールのケニー・ダルグリッシュ監督は、
彼らが反人種差別のTシャツを着てくれたら嬉しかったのだが
 と、リバプールの選手達を非難する周囲の声に皮肉を込めてやり返し、
誰も我々を分断することは出来ない。どれだけそうしようとしても、だ
 と、まるで何かの陰謀の犠牲者であるかのように語った。
 80年代の白人至上主義を繰り返そうと、リバプールが考えているわけでは決してない。事実、ホームにオールダム(3部に相当するFL1)を迎えた1月6日のFAカップ3回戦で、相手DFのトム・アデイェミに人種差別的な野次を飛ばしたファンを永久追放することを約束している。深く傷付いたアデイェミを、ディルク・カイトやスティーブン・ジェラードなどリバプールの選手はピッチの上で慰めた。その後、ダルグリッシュはようやく語るべき言葉を語った。
いついかなる時も、我々は人種差別を許さない」】

※ 幹部として同席したダービッツに クライフが言った言葉はこうだ。 「お前がここにいられるのは、 黒人だからだ」 ※
○A・ファーディナンドに対する差別的発言で裁判にかけられたテリー。人種差別反対運動のTシャツを着た姿が、なんとも皮肉だ。
○スペインでは今もモンキーチャントが響く。先日のバルセロナ・ダービーでも、D・アウベスが標的に。
【イングランドのスタジアムはもはや人種差別者達にとって天国ではない。
 昨年のボクシング・デ−(クリスマス翌日=12月26日)の試合、アーセナル対ウォルバーハンプトン戦を観戦するため、私はエミレーツ・スタジアムを訪れた。黒人、日本人、中国人と、周囲には様々な顔が見えた。これは、20年前には考えられなかった光景だ(古き悪しき時代にも、アーセナルのファンは比較的穏健だったが)。
 イングランド・フットボールは、人種差別行為を絶対に許さない。イングランド代表とチェルシーでキャプテンを務めるジョン・テリーは、2月1日、裁判に出廷する。昨年10月23日のクイーンズ・パーク・レンジャーズ戦で、アントン・ファーディナンドに対して人種差別発言をした嫌疑でだ。試合中継の映像でテリーの発言を確認した一般市民が通報し、起訴となったのである。無実を主張するテリーは、「あらゆる手段を尽くして、身の潔白を証明する」としている。
 人種差別行為を厳しく取り締まるこうした英国とイングランド・フットボールの取り組みは、大きな成果を挙げている。他国とは比べ物にならないくらいにだ。東欧諸国には人種差別は深く根付いており、驚くべきことに、スペインやイタリア、フランス、オランダでも依然として見られる。以下は、いくつかの代表的な例である。
《イタリア》
 インテル・ミラノに在籍していた頃のマリオ・バロテッリ(現マンチェスター・シティ)への人種差別発言と、それを許していた呑気なイタリア・フットボール。サイモン・マーティンの新著『Sport Italia』には、人種差別に関する様々なエピソードが盛り込まれている
 ユベントスのファンが09年のインテル戦で“黒いイタリア人はいない”(編集部・注:バロテッリはガーナ人の両親の下に生まれた後、イタリア人夫妻の養子となりイタリア人として育つ)とチャントしたこと。
 イタリアU−21代表のピエルルイジ・カジラギ監督(当時)が、「彼(バロテッリ)の人格が人々を苛(いら)つかせているだけで、それは人種差別ではない」と発言したこと。
 当時のイタリア代表監督、マルチェロ・リッピが高校生を前に、「カルチョに人種差別は存在しない」と、事実を覆い隠すように語ったこと
 バロテッリが現在、プレミアリーグでプレーしているのは偶然ではないはずだ。セリエAでは今尚、黒人選手のサラリーが不当に低く抑えられているのか。シマンスキーにはリサーチを期待する。
《スペイン》
 イングランドでは消え去ったモンキーチャントが、スペインのスタジアムでは依然として響き渡っている。先日のバルセロナ・ダービーの後、エスパニョールの会長はファンの試合中の態度を「100点満点」としたが、彼らはバルセロナのダニエウ・アウベスがボールを触る度に、猿の鳴き真似をしていた。バルサ時代のサミュエル・エトー(現アンジ・マハチカラ)は、そうした目に何度も遭っている。
 04年、スペイン代表監督だったルイス・アラゴネスはティエリ・アンリを、「Negro de mierda(黒いクソ野郎)」と呼んだうえ、典型的な言い逃れ———「私の友人の何人かは黒人だ」———をした
《フランス》
 フランス代表のロラン・ブラン監督が、FFF(フランスサッカー連盟)の会合でかなり際どい発言をしたのは、昨年の11月のことだった。
我々が求めるのは、ある決まったタイプだ。大きく、強く、スピードのある選手だ。それはどんな選手か? 黒人さ。それが事実なんだ。あるスペイン人は私にこう言った。我々に問題はない。何故なら黒人がいるから
 一方、今シーズンのリーグ・アンで唯一の黒人監督だったパリ・サンジェルマンのアントワン・コンブアレは昨年12月、チームが首位を走っていたにもかかわらず解任された
《オランダ》
 昨夏のアヤックス・アムステルダムの幹部会で、ヨハン・クライフが同席したエドガー・ダービッツに言った言葉はこうだ
お前がここにいられるのは、黒人だからだ」】

※ 「フィールドには 溢れんばかりの黒人がいる。 しかし、ベンチには ひとりもイナイだろう?」 ※
○イングランドで指揮を執る黒人監督は、ヒュートンパウエルの2人のみ。ピッチは黒人選手で溢れているが、要職はまだ・・・
【人種差別については先進のイングランドも、全ての問題を片付けたわけではない。クライフとダービッツの一件が、ある興味深い事実を浮き彫りにする。イングランドのクラブに、黒人の幹部はいるのか。ひとりの名前も挙げられないのが現状だ
 イングランドのフットボール界で要職に就いている黒人は、ひとりも見当たらない。英国人権平等委員会のトップ、トレバー・フィリップスは05年、私にこう言った。
フィールドには溢れんばかりの黒人がいる。しかし、ベンチにはひとりもイナイだろう?
 それは今も変わらない。08年、ブラックバーン・ローパーズはポール・インスをプレミアリーグ初の黒人監督としたが、僅か6カ月で解任した。10年、ニューカッスル・ユナイテッドは好成績を残していたクリス・ヒュートンを解雇した。
 ヒュートンは前シーズンにクラブを昇格させ、プレミアリーグでの新シーズンはそこまで11位と健闘していた。
「我々は、経験豊富な人物こそがクラブを前進させてくれると考えている」
との解任理由は、まったく説得力がなかった。ニューカッスルは昨シーズンを12位で終えている。
 ルート・フリット(元オランダ代表)とジャン・ティガナ(元フランス代表)はプレミアリーグで長く監督をやった経験があるが、彼らは“外国人”だ。フリットもティガナも、イングランドでは黒人としてではなく「オランダ人」と「フランス人」、つまり外国人として認識されているのだ。フリットは黒人監督ではなく、洗練されたオランダ人監督である
 頭が固くて古い人間は、今でも黒いイングランド人は監督など出来ないと考えている。バーンズが言うように、「監督として成功した黒人が、未だにひとりもイナイから」だろう。
 ニューカッスル解任後、バーミンガム・シティ(FLC)に移ったヒュートンとチャールトン・アスレティック(FL1)のクリス・パウエルが現在、下部リーグを含めたイングランドの92のプロクラブで唯一の黒人監督だ。これは、プレミアリーグの選手の5人に1人が黒人という現状からすれば、極端に低い割合だ。英国のデイビッド・キャメロン首相も先頃、こう語っている
「重要なのは、黒人やその他の人種の監督やコーチがフットボールの表舞台に出てくることだ」
 改善へのヒントはある。米国のNFL(アメリカンフットボールのプロリーグ)が定めている取り決めだ。提唱したピッツバーグ・スティーラーズのオーナーの名前をとって「ルーニー・ルール」と呼ばれるこの取り決めは、こうだ。
「空席となったヘッドコーチ(監督)やゼネラルマネジャー(GM)を決める場合、必ずマイノリティー(社会的少数派=黒人など)を最低ひとりは候補者として面談する必要がある」
 これはNFLでは即効し、昨シーズンのプレーオフに出場した12チーム中4チームのヘッドコーチ、もしくはGMが非白人だった。
 このルーニー・ルールに似た制度を取り入れようと、FAはプレミアリーグとフットボールリーグ(実質2〜4部リーグの統括機関)に働きかけている。イングランド・フットボールが人種差別の根絶を真に望むのであれば、これは又とないチャンスだろう。】





《ワールドサッカーダイジェスト:2012.2.16号_No.357_記事》
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いつだって楽天南米_No.160 #356 [世界のサッカー事情]

チャレンジの1年を迎えたボカとリーベルの「抱負」

【アルゼンチンを代表する二大クラブ、ボカとリーベルにとって、2012年は大きなチャレンジの年と言えます。だからでしょうか。真夏の1月はシーズンオフですが、両チームとも新しい戦いに向けて、いつも以上にチームの調整に気合いが入っています!!
 昨年12月に3年ぶりとなるリーグ制覇を果たしたボカは、出場権を獲得したコパ・リベルタドーレスでの優勝が最大の目標となるでしょう。それにしても、2000年から07年までの8年間、同大会で四度の優勝を成し遂げて南米最強の肩書きを欲しいままにしていたボカが、3年間もコパ・リベルタドーレスに参加していなかったなんて、未だに信じられません。欧州で例えるなら、あのバルセロナがチャンピオンズ・リーグに3年続けて出場していないようなものです。
 一部のメディアは、ボカがコパ・リベルタドーレスに参加するにあたって、名将ビアンチを呼び戻そうとしていると報じていましたが、29戦負けなしと無敗記録を続けるファルシオーニ監督を支持するサポーターは少なくなく、そうしたファンの思いを汲んだのでしょう。結局、昨年いっぱいで満了するはずだったファルシオーニ監督との契約を1年延長しました。
 コパ・リベルタドーレスで頂点に立って、南米王者としてクラブワールドカップに出場する−ー−。この目標を、ファルシオーニ監督に託したわけです。
 ボカのクラブワールドカップに対する想いは、並々ならぬモノがあります。例えば、昨年末に新会長に就任したアンジェリッシ。実は彼、「目指すは日本!!」をスローガンに選挙を戦って、当選した会長なんです
 強いこだわりを持っているのは、サポーターも一緒。過去に三度のワールドチャンピオンに輝いて、ミランやR・マドリーと世界一の称号を分け合って来たという自負が、彼らにはあります。リーグ優勝だけでは、当然満足できるわけがありません。
 中盤の大黒柱リケルメにとっても、クラブワールドカップは特別な大会です。思い出されるのは07年。その年の11月30日にボカに復帰したリケルメは、大会のエントリー期限に間に合わず、日本まで帯同しながら結局ピッチに立てませんでした。当時の悔しい思いを、払拭するチャンスが、ようやく巡って来たというわけです
 兎に角、クラブに係わる全ての人が、「コパ・リベルタドーレス優勝」に集中していると、そう言っても過言ではありません
 今年のコパ・リベルタドーレスは1月25日に開催しますが、第2ステージから参戦するボカの初戦は2月15日。リケルメを中心としたチームが、5年ぶりの南米制覇を達成できるかどうか、今から注目です!!
 一方リーベルは、やはり「トップリーグ復帰」が最大の目標となります。
 昨年8月のシーズン開幕前、カベナギやドミンゲスを獲得して強化を図りましたが、アルメイダ監督は更にFWとDFの補強を要請していました。そして先頃、間もなく開幕を迎える後期リーグに向けた助っ人としてやって来たのが、トレゼゲとポンシオです。
 ここで説明する迄もなく、トレゼゲはフランス代表として98年ワールドカップとEURO2000で優勝を経験している大物ですが、実は彼にとってアルゼンチンは幼少期から思春期を過ごし、プロでビューも果たした第ニの母国なの。名門の1部復帰に自分の経験を役立てたいという強い思いから、今回の移籍が実現しました。
 ポンシオもまた、最愛のサラゴサから受け取る高額の報酬を捨てて、リーベルの再建に挑む道を選びました。サラゴサを離れるのはかなり辛かったようで、退団会見では思わず涙を流す一面も。そこ迄の犠牲を払ってでも、リーベルでの仕事に価値を見出したポンシオンにも、また期待したいですね。
 ところでこの両チーム、1月25日と29日に行なわれるオフシーズン恒例となった非公式のスーペルクラシコで激突します。リーグ戦では見られないカードとあって注目度は高く、立見席のチケットも発売と同時に完売。ボカもリーベルも、非公式とはいえ宿敵に勝って今年の目標達成に向けて弾みを付けたいのでしょう。白熱のバトルが期待できそうです!! 】 《この項・了》




《ワールドサッカーダイジェスト:2012.2.2号_No.356_記事》
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サッカーのサバイバル [世界のサッカー事情]

サバイバル(in 日本)

 米国式スポーツが持つ箱庭完結型のストーリーとは異なる、非情な「入れ替え」を伴うシステムは、自由な参入によってそのスポーツの裾野を広げていくと同時に、底辺のチームに「もっと強くなれ」と迫り続けることにも繋がっていく。同時に、「明日もその場に立ち続けること」を目標とする生存競争は、ある種の娯楽としても成立して来た。それこそローマ帝国の時代に起源を求めることが出来そうなこのシステムが、今日のサッカー界隆盛を作り上げた要因の一つであることは確かだ。
 辛くて、苦しくて、もう2度とやりたくないし、もしもその生存競争に敗れたら、とてつもなく悲しい。しかしダカラこそ、その戦いの緊迫感は頂点を争う戦いに優るとも劣らず、勝ち残った時の喜びはどこまでも大きく、一度落とされてからもう一度這い上がることで得られる財産もまた、何物にも代え難いモノになるわけだ。
 世界のサッカー界は、そのサイクルを繰り返しているし、Jリーグにもそのサイクルは着実に根付きつつある。
 今季のJリーグのサバイバルは、例年にも増して激しい。G大阪と鹿島という戦力的には上位を狙っても不思議ではない---、否、狙うべきクラブが下位を彷徨っていることが主因であり、長らくJ1に居て、既に「定位置」と呼べる年月を過ごした新潟が低迷してしまったこともまた大きな理由だろう。善くも悪くもこの争いの常連である大宮、そしてシーズン途中の監督交代を経た神戸を加えた5チームが、この渦中にあると見ていい。
 客観的に見て、一番厳しいのは新潟。残り4試合のうち最低でも2勝1分けは欲しいところで、かなり苦しい。地力のあるG大阪にしても、地力がアルがゆえにプレッシャーは厳しく、何より残留争いの経験値がクラブとしても、個人としても蓄積されていない。百戦錬磨の大宮や、この争いをくぐり抜けた経験を持つ神戸は、それが戦力以上のアドバンテージだ。その意味で考えても、今節の大宮と鹿島の“決戦”は注目だ。
 残るは4節。今季の生存競争を勝ち残るのはどのクラブか。負けたからといって決して「終わり」になるわけではないが、さりとて負けの許される戦いであるはずもない。

【EL GOLAZO(エル・ゴラッソ):2012.11/7,8日号記事】

2012・J1昇格プレーオフについて
 今季から新設された「J1昇格プレーオフ」出場チームが決定した。
 3位から6位のチームが各1試合のトーナメントを行ない、優勝したクラブがJ1に昇格する。
 準決勝は11月18日(日)、決勝は23日(金・祝)。

■日程
●準決勝
11/18(日):  京都(3位) vs 大分(6位)
11/18(日):横浜FC(4位) vs 千葉(5位)

●決勝
11/23(金・祝):京都と大分の勝者 vs 横浜FCと千葉の勝者

■試合方式
90分間(前後半各45分)の試合を行ない、準決勝及び決勝とも90分で引き分けの場合は年間順位が上位のクラブを勝者とする。

京都  (3位)————┐  決勝
            ┏━━━━┐
大分  (6位)━━━━┛ 大分 │
         準決勝     ┏━━ J1昇格
横浜FC(4位)————┐    ┃   大分
            ┏━━━━┛
千葉  (5位)━━━━┛ 千葉


【EL GOLAZO(エル・ゴラッソ):2012.11/13-15日号記事】





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イタリア・サッカー情報 [世界のサッカー事情]

カルチョと呼ばれるフィレンツェ古代サッカー発祥の地として知られ、イングランドフットボールと双璧の存在となっている。

イタリアはサッカーで今まで多くのスタープレイヤーを輩出してきた。FIFAランキング(2010年5月発表)は第5位。W杯にはこれまで全18回中16回出場しており、そのうち優勝4度(5度のブラジルに次いで2番目に多い)、準優勝に2度輝いている。

イタリア代表はユニフォームの青い色からアズーリと呼ばれる。カテナチオ(「鍵をかける」という意味)と呼ばれる鉄壁の守備を軸として現在に至る。近年は攻撃陣のタレントも豊富で、かつての守備だけのチームではなく、伝統の堅い守備からの素早い攻撃をするチームになりつつある。また各国からはそのプレーを「サッカーをしているというより、仕事をしている」とまで言われる。また、伝統的に綿密な戦術を重んじる傾向があり現代サッカーのフォーメーションを数々考案してきた(アリゴ・サッキ、ジョバンニ・トラパットーニ他)。

イタリアの国内リーグであるセリエAは世界最高峰を争う程のレベルにあり、世界中のスター選手を集めている。また、コッパ・イタリアと呼ばれるカップ戦も行われる。主なクラブチームはACミラン、ラツィオ、インテル・ミラノ、ユヴェントス、ASローマなど。これらはチャンピオンズリーグの常連でもある。2009-2010シーズンのチャンピオンズリーグではインテル・ミラノが優勝を果たした。


セリエASerie A、セリエ・アー、イタリア語の発音はセーリェ・アーに近い)は、イタリアのプロサッカーリーグのトップディヴィジョンである。2010-2011シーズンよりレガ・セリエAによって運営される。リーグが現在の形になったのは1929年のことである。1990年代にはUEFAチャンピオンズリーグでイタリアのクラブチームが7年連続でファイナルに進むなど世界中からスター選手が集まり世界最高峰のリーグと呼ばれていた。2011年現在のUEFAリーグランキングではプレミアリーグイングランド)、リーガ・エスパニョーラスペイン)、ブンデスリーガドイツ)に次ぐ第4位である。


セリエBSerie B, セリエ・ビー)は、イタリアのプロサッカーリーグで上から2番目の選手権の名称(2部リーグ)である。2010年のシリーズからレガ・カルチョの運営から分離しレガ・セリエBで運営され、オーストリアのオンライン・ブックメーカーBwin(ビーウィン)が協賛し「セリエBwin」と呼ばれることとなった。

カデッティ(cadetti)、カンピオナート・カデット(campionato cadetto、2軍選手権)などとも言われる。リーグが現在の形になったのは1929年のことである。

2004-05シーズンから、22のクラブが出場し、前期(girone di andata, 9月-12月)と後期(girone di ritorno, 12月-翌年5月)で試合が行われる。 シーズン終了後、上位2クラブは無条件で次季セリエAに昇格となる。さらに3位、4位、5位、6位のクラブでプレイオフ(ホームアンドアウェー)を行い、勝ち残った1チームもセリエAへ昇格となる。なお、3位と4位のクラブで勝ち点差が10以上ある場合、プレイオフは行われず、3位のクラブの自動昇格となる。 また、下位3クラブは自動的にセリエC1(レガ・プロ・プリマ・ディヴィジオーネ)に降格し、18位と19位のクラブは、プレイアウト(ホームアンドアウェー)の2試合を行い、敗れると降格する(計4クラブ)。





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欧州活字メディア事情_第5回:フランス編 [世界のサッカー事情]

フットボールの“知りたい”を知る 大国別のメディア・カルチャーを徹底解明
欧州伝統国の活字メディア・カルチャーに迫る短期集中連載の第5回はフランス。ジャーナリズム大国として知られるだけあって、スポーツメディアのレベルは総じて高い。その頂点に君臨するのは、歴史ある『レキップ』と『フランス・フットボール』の2大巨頭だ。

[ レキップがなければ始まらない ]
日刊紙はレキップの独占状態。新創刊される新聞は多いが振るわず、1年足らずで廃刊に追い込まれたものも。
【パリ中心部の大きなカフェで『レキップ』を読んでいると、優雅にトレイを持ったギャルソンが声を掛けてくる。
「読み終わったら譲っていただけませんか? 今朝は買いそびれちゃって。レキップなしじゃ生きて行けないんです」
 フランスではこんなことが、カフェでも電車の中でも良く起こる。そしてその後は、「今年のバロンドールは○○でしょう」とか、カナル・プリュスの番組を観る時は、妻にはよそへ行ってもらいます」など、サッカー談議に花が咲く。
 こうした会話には、フランスのサッカーファンとメディアの関係が凝縮されている。毎日欠かさず日刊紙のレキップを読み、火曜日と金曜日は雑誌『フランス・フットボール』(バロンドールの主催誌)を買い、週末には有料TV局『カナル・プリュス』で試合と解説番組を楽しむ。この“3点セット”が、フランスでサッカーを楽しむ基本なのである。
 このうちレキップは、一般紙の『ル・フィガロ』と並び、全国紙でトップの発行部数を誇る。寝坊すると売り切れてしまう日もあり、そうなるとキオスク(売店)巡りをするはめになる。取り扱う対象はスポーツ全般だが、年の4分の3ほどは表紙から前半全てがサッカーの話題で埋まっている。日本のスポーツ新聞と違い、ヌードや芸能ネタはゼロ。ポリシーとして選手の私生活に関するゴシップも載せない。値段は1ユーロ(約120円)程度で、土曜日は小冊子の『レキップ・マガジン』付きで2ユーロ(約240円)となる。
 その長い歴史の中には、コレクションの対象になっている号もある。例えば南アフリカ・ワールドカップ中にアネルカの発言(ドメネク監督批判)をスクープした号は、瞬く間に店頭から消えた“伝説”の1部だ。プラティニやジダンが表紙を飾った時代の号も然りで、フランス・サッカー連盟(FFF)の本部やクレールフォンテーヌには、美しき時代のレ・ブルーを称えたレキップの表紙が、額に入って飾られている。
 記事の内容は大きく3種類に分けられる。①試合前後の解説(リーグ・アン、代表、チャンピオンズ・リーグ)、②旬の選手の解剖、③インタビューだ。
 ①では、リーグ・アンの試合当日に全試合の予想布陣と見どころが一挙に掲載される。戦術面のプレビューだけではなく、直前のチーム状況や、注目選手の紹介、小インタビューまで盛り込まれた濃い内容だ。代表戦の前には、『ワールドサッカーダイジェスト』でお馴染みのヴァンサン・デュリュック記者による包括的な内容の記事が、現在に至るまでの流れや課題を浮き彫りにする。試合の翌日はレビュー記事を中心に徹底分析。フォーメーション、採点、寸評、監督と選手のインタビューなどで紙面が埋まる。
 ②で最近の例を挙げれば、バストーレ(パリSG)やジルー(モンペリエ)といった注目株の分析記事が掲載されている。③はどのメディアよりも早く、しかも独占で大物のインタビューを実現する。】

[ フランス・フットボールの慧眼 ]
バロンドールを主催するフランス・フットボールは国際的な権威を誇る。見識の高さはフランスでも随一だ。
【このレキップと双璧を成す存在が、フランス・フットボールだ。雑誌ならではの奥行きのある企画を展開し、“サッカーのバイブル”と呼ばれている。
 一番の人気記事はインタビューで、プレーから人物像まで深く掘り下げるのが特徴。手元にある最新号では、アンドレ・アユー(マルセイユ)のインタビューが巻頭を飾っている。手掛けたのは、やはりワールドサッカーダイジェストでお馴染みのフランソワ・ヴェルドネ記者だ。
 通に人気なのは、「L1(リーグ・アン)MAX」というページ。毎節全試合を、豊富な統計を駆使して分析する。例えば最新号では、「27=ナンシー戦でのパリSGのシュート数。これは今シーズンのリーグ・アンでノーゴールに終わったチームでは最多」といった具合だ。
 何よりフランス・フットボールの地位を高めているのは、その慧眼だろう。フランス・ワールドカップ前に代表監督のジャッケを過剰に批判したレキップに対し、一貫して支持。反対にレキップが甘かったドメネク前監督については、厳しい批判を貫いた。観戦の友としての重要性はレキップに劣るものの、見識の確かさは、今のところフランス・フットボールに軍配が上がっている。
 いずれも1946年に創刊された歴史と権威あるこの2紙/誌が、市場を独占する。これがフランスのサッカーメディアの現状だ。レキップに対抗しようと、新しい日刊紙が発行されては挫折を繰り返している。移籍市場専門紙、クラブ専門紙などターゲットを絞った新聞もあるが、あくまで脇役に過ぎない。雑誌も同様で、若年層に的を絞った『オーンズ・モンディアル』が健闘しているが、フランス・フットボールには遠く及ばない。
 では一般紙のスポーツ欄もダメかといえば、そうではない。フランスのサッカーは労働者の支持によって発展した歴史があり、現在も多くの庶民と、貧困や差別に苦しむ移民層が支えている。そのため社会学的に重要なテーマとして、サッカーが大きく扱われているのだ。
 高級紙『ル・モンド』(中道左派)、『ル・フィガロ』(右派)、日曜紙『ジュルナル・デュ・ディマンシュ』、地方大衆紙『ル・パリジャン』などは、いずれもサッカーに力を入れている。なかでも知識人の読者が多く、社会的影響力の強いル・モンドは、クォータ事件(編集部・注:今年5月に起きたFFF内部での人種差別問題)の際にも詳細な記事を連続して掲載。代表監督のブランが人種差別と無縁の人であることを、進歩的な層に知らしめる役割を果たした。
 また、各クラブに密着する地方紙も無視できない。特に南仏の『ラ・プロバンス』は、国内随一の人気クラブであるマルセイユの情報に関して最高峰だ。
 インターネットのサイトは溢れんばかりだが、これも信頼性でレキップとフランス・フットボールの右に出るモノはない。活字メディア以外では、『RMC』などのラジオも広く親しまれている。
 フランスの活字メディアの特徴として最後に挙げておきたいのは、卑俗なタブロイドが皆無という点である。フランスでは、意識の高い読者がゴシップを嫌うのだ。いまだジャーナリズムの健全性が保たれている証と言えるだろう。
 ちなみに、あなたがフランスのカフェで冒頭のようなシーンに遭遇した際には、大いに譲ったり貸したりすると良い。相手がギャルソンなら、その後のサービスがグンと良くなるはずだ。】



《ワールドサッカーダイジェスト:2011.12.15号_No.353_記事》
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欧州活字メディア事情_第4回:スペイン編 [世界のサッカー事情]

フットボールの“知りたい”を知る 大国別のメディア・カルチャーを徹底解明
伝統国の活字メディア・カルチャーに迫る短期集中連載の第4回はスペイン。国内最古のフットボール専門誌『ドン・バロン』は、ナゼ廃刊に追い込まれたのか。そしてR・マドリー、バルセロナというリーガを代表する2大クラブとメディアの知られざる関係は___。

[ 贔屓クラブへの肩入れ報道 ]
スポーツ紙はサッカーの記事が大半を占める。首都マドリーに本拠を置くアス紙は、R・マドリー寄りの新聞。
【今年9月、スペイン最古の歴史を持つサッカー誌、『ドン・バロン』の廃刊が決定した。現在はドン・バロンと言う名前を他の会社に譲渡するカタチで継続の道を探っているところだが、昨今の経済不況の影響もあり、その将来は不透明。資金流用の容疑で経営のトップが逮捕され、それが全ての事態を加速させる結果となった。
 長く同誌の編集長を務め、ワールドサッカーダイジェストにも何度か寄稿しているトニ・カサルス氏は以前、経営の実情についてこう漏らしていた。
雑誌が存続しているのは、ドン・バロンと言うブランドイメージのお陰だ
 廃刊に追い込まれた要因としては、前述の経済不況、インターネットの普及などいくつか挙げられるが、その一方で、彼らはスペインのサッカーメディア特有のある実情に直面し、それに抗う(あらがう)べく戦って来た。それは、年々露骨さを増すフォロフィスモ___。そう、贔屓クラブに対する“肩入れ報道”である。
 スペイン・サッカーは、R・マドリーとバルセロナの二強の抗争の歴史とともに歩み、発展を遂げて来た。そしてメディアも、その枠組みの中で活動を続けて来た。いや正確に言えば、メディアは両クラブのライバル関係を煽り、そこに便乗して来ただけかも知れない。
 実際、『マルカ』、『アス』、『ムンド・デポルティボ』、『スポルト』と言うスポーツ紙のうち、マルカとアスはR・マドリー寄り、残りの2紙はバルサ寄りと、まったく立ち位置を異にする。当然ながら、紙面構成は贔屓チームの礼賛(らいさん)、ライバルチームの批判といった記事、論調が中心だ。かつてはバルサ系の2紙のほうがその傾向が強いと言われたが、バルサの天下が長く続くに従い、最近はとりわけマルカが急激にフォロフィスモの度合いを増している。業界最大手として「国民のためのスポーツ紙」を自負していたかつての面影は、もはやない。
 また、各紙とも名物記者を抱えているが、なかには手の平を返すように意見を豹変させ、ファンの代弁者的なポジションを取ろうとする記者も少なくなく、そこにはジャーナリストが持つべき公平性は見られない。あれだけ叩かれながら、ここに来て急上昇しているカカへの評価がソノ良い例だろう。
 とはいえ、多くの読者がライバル意識を煽るような記事を欲しているのは、紛れもない事実。フットボールの本質を伝えるべく、常にニュートラルな立場で誌面展開を行なって来たドン・バロンは、年を追うごとにフォロフィスモを増す時代の流れに、完全に飲み込まれてしまったとも言えるだろう。

[ モウリーニョの出現を喜ぶ記者 ]
一般紙にはニュートラルな視点で書かれた記事が多い。スペイン屈指の執筆陣を起用するエル・パイス紙はクオリティーが高いと評判。
【フォロフィスモともリンクするが、スペインのサッカーメディアのもう一つの特徴は、話題作りの巧みさにある。
 最近のマルカは、ある日の例を紹介すると、全48頁中32頁がサッカーに当てられ、そのうちR・マドリーの記事が13頁を占めていた。アスもほぼ同様で、こちらは全40頁中27頁がサッカー関連の記事、うち12頁がR・マドリー関連の記事という配分だった。
 毎日試合が行なわれるわけではないため、ページを埋めるには何かしらの話題が必要となる。そこで彼らが“好物”としているのは、日本語で「騒動」と訳すことのできる「ポレミカ」なるもの。監督、選手、クラブ関係者の失言、暴言を含め、ピッチ内外のポレミカをことさらオーバーに伝え、更にその話題について識者がディベート、あるいはオピニオンするといった具合に、ありとあらゆる手法を使って読者の関心を惹き付ける内容に作り上げていくのだ。
 近年、この話題作りに最も貢献しているのは、言うまでもなくR・マドリーの指揮官モウリーニョである。
「モウがマドリーに来てから、サッカーの話題は二の次になってしまった」
 そう嘆く記者は少なくないが、それはあくまでも表向きだけ。内心では次から次へとポレミカを提供してくれるモウの出現を喜んでいるはずだ。
 とはいえ、試合の分析については流石と言うしかない。紙面ではフォーメーションから、選手がボールを受けた場所や回数を示す分布図に至るまで、ふんだんにCGが使われており、レイアウトもカラフルで綺麗。そして、フットボールに対する見識の深さを窺わせる記事が、随所に盛り込まれている。
 マルカとアスには、地方のクラブ関連のニュースを伝える「地方版」というページが存在し、試合の当日や翌日などには一面を飾ることも少なくない。
 翻って、一般紙はどうか。フォロフィスモ的な記事もまったくないわけではないが、批判記事も含めてよりニュートラルな立ち位置を取っている。とりわけ最大手の『エル・バイス』紙は、スペインでも屈指の執筆陣を起用しており、記事のクオリティーではスポーツ紙を凌駕しているのではないかと思えるほどだ。
 地方紙は、地元のチームを長年追っているベテラン記者を抱えていることもあり、日常の出来事から試合のレビュー記事に至るまで、関連情報は質・量共に充実している。
 もうひとつ、活字メディアではないが、スペインのサッカーメディアを語る上で忘れてならないのは、ラジオの影響力だ。
 毎日深夜12時になると、複数の有力ラジオ局で一斉にスポーツ番組・・・サッカー番組と言っても差し支えない内容だが・・・が始まる。リーグ戦が開催される週末には、これまた激しい聴取率競争を展開するラジオ局が、7〜8時間ぶっ通しでライブ放送をする。
 深夜の放送ながら圧倒的な人気を誇るのは、まさしく「夜の国」スペインならではだが、試合を終えたばかりの選手や監督が出演するインタビューコーナーあり、有名OB&名物記者が参加するディベートコーナーありのバラエティーに富んだ内容となっている。
 更に各ラジオ局は、人気のアナウンサーや解説者を抱えており、お気に入りの実況を聞きながらTVで試合の映像を見るというのが、一般的なサッカーの観戦スタイルとなっている。
 ただやはり、歴史の古さから言っても、国民への浸透度で言っても、新聞には適わないだろう。時にはフォロフィスモが度を過ぎる事もあるが、ページをめくるだけで、ポレミカやディベートを好むスペイン人の、サッカーに対する愛情の深さがダイレクトに伝わってくる媒体、それが新聞なのだ。




《ワールドサッカーダイジェスト:2011.12.1号_No.352_記事》
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欧州活字メディア事情_第3回:イタリア編 [世界のサッカー事情]

[サッカー][目] [耳]
フットボールの“知りたい”を知る 大国別のメディア・カルチャーを徹底解明
欧州伝統国の活字メディア・カルチャーに迫る短期集中連載の第3回は、カルチョの国イタリア。ピンクのシンボルカラーでお馴染みの『ガゼッタ・デッロ・スポルト』を筆頭とする新聞、やや下火の雑誌、そして台頭中のインターネットナイトという3者の実態に迫る。

[ ガゼッタは中立性や客観性が... ]
大衆的な人気を博し、スポーツ紙の最高峰に君臨するガゼッタだが、ジャーナリズムの面ではやや疑問符が。
【イタリアのスポーツメディアで、誰もがすぐに思い浮かべるのが、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』だろう。1896年に創刊し、ピンク色のシンボルカラーで知られる同紙は、発行部数が約32万部、推定読者数が約400万人と、文字通り「イタリアで最も広く読まれている新聞」である。ちなみに、発行部数と読者数の大きな違いは、多くの人々がバール(カフェバー)など公共の場で新聞に目を通す習慣を持っているためだ。
 ミラノに本社を置くこのガゼッタを筆頭に、イタリアには『コリエーレ・デッロ・スポルト』(本社はローマ・発行部数は約19万部)、『トゥットスポルト』(本社はトリノ・発行部数は約10万部)と、全国版のスポーツ新聞が3紙存在している。スポーツ新聞とはいうものの、紙面の大半を占めるのは、この国の圧倒的なナンバー1スポーツであるカルチョの話題。スポーツジャーナリズム業界のリーダーを自認するガゼッタは、40ページのうち10数ページをその他のスポーツ(モータースポーツ、バスケットボール、バレーボール、テニス、自転車など)に割いているが、残る2紙は24ページのうち20ページ前後がカルチョの話題と、事実上は「サッカー新聞」と言える。
 面白いのは、3紙の編集方針にハッキリした違いがある点。ガゼッタはミラン、インテル、そしてユベントスと、本拠を置く北イタリアの「ビッグ3」を大きく取り上げる傾向がある。セリエA全サポーターの70㌫近くをビッグ3のそれが占めると言われるだけに、マーケットの一番大きな部分をしっかりカバーし、盟主の座を手堅く保とうというスタンス。原則的にネガティブなことはあまり書かず、ポジティブな側面に光を当ててサポーターを喜ばせようという姿勢を保っているのも、より広い層の共感を得るという商業的な狙いがあるためだ。
 また、近年のガゼッタは、各クラブと提携してDVDや写真集、優勝記念のコレクターアイテムなど、各種のガジェット類を有料の付録として展開しており、ビジネス上のいわば“顧客”にあたるクラブに対しては、敵対的な立場を取りづらいという事情もある。但し、それと引き換えにジャーナリズムとしての中立性や客観性が犠牲になっている事実は、否定できない。
 そのライバル紙であるコリエーレ・デッロ・スポルトは、必然的にガゼッタとは異なる方針を採らざるを得ない。イタリア中部の首都ローマに本拠を置くこともあり、ローマ、ラツィオ、そしてフィオレンティーナとナポリに好意的で、逆に北のビッグ3に対する論調は辛い。紙面の作り方もガゼッタと比べるとアグレッシブで、旗色のハッキリした記事が多い。
 もうひとつのトゥットスポルトは、ミラノ、ローマと比べるとマーケットの規模が小さいトリノに本拠を置いているうえ、発行部数も2紙に大きく劣るマイナーな3番手ゆえ、お膝元のユーベとトリノのサポーターにターゲットを絞るという“偏った”編集方針を打ち出している。特徴的なのは、「ユーベとトリノの御用新聞」ではなく、「ユーベサポーターとトリノサポーターの御用新聞」だという点。迎合する相手はクラブではなくサポーターであり、それゆえ論調はしばしばクラブに対して批判的なものになる。
 しかも、その触れ幅は非常に大きい。監督に対する執拗なネガティブキャンペーンも多く、最近ではクラウディオ・ラニエリ、チーロ・フェラーラ、アルベルト・ザッケローニがその“犠牲者”となった。逆に現在は、クラブの元キャプテンでティフォージのアイドルであるアントニオ・コンテを、全面的に支持する論調に徹している。
 このトゥットスポルトがその筆頭だが、他の2紙、そしてテレビやインターネットメディアも含めて、イタリアのスポーツジャーナリズムは、論調の起伏が激しく、一貫性に欠ける傾向がある。その主因は、試合結果によって大きく揺れ動くサポーターの気分や感情を捉えてそれに同調し、時には煽ることによって関心を引き付けようとしているから。日本のスポーツ紙や夕刊紙、イングランドのタブロイド紙と同じく、これは「迎合的スキャンダリズム」の象徴例と言えるだろう。

[ 読み応えのある記事は一般紙に ]
スポーツ紙と比べて一般紙は、中身の濃い読み応えのある記事が多い。重鎮ジャーナリストの論説が看板だ。
【大衆的な人気に支えられているスポーツ紙のそうしたスタンスは、一般紙になるとかなり薄まってくる。スポーツ紙よりも一般紙の方が格上だというのは、どこの国でも同じ。事実、イタリアで最も質が高く読み応えがある記事は、一般紙のスポーツ欄に載っているケースが多い。
 イタリアの一般全国紙は、ミラノに本拠を置く『コリエーレ・デッラ・セーラ』、ローマ発の『ラ・レプブリカ』が発行部数でトップを争い、それにトリノの『ラ・スタンパ』が続くという、スポーツ紙と似た勢力図。コリエーレ・デッラ・セーラはマリオ・スコンチェルティ、ラ・レプブリカはジャンニ・ムーラ、ラ・スタンパはロベルト・ベッカンティーニと、イタリア・スポーツジャーナリズム界の重鎮を看板に据えて、説得力のある論説記事を提供している。
 毎日発行される新聞がこれだけの充実度を誇っているうえ、インターネットメディアの発展もあって、サッカー雑誌は週刊も月刊も窮地に陥っている。100年の伝統を誇る名門『グエリン・スポルティーボ』も、2010年末をもって週刊から月刊に発行サイクルが変わり、編集部も大幅に縮小された。
 逆に近年どんどん拡大しているのが、インターネットメディア。イタリアではオピニオンや戦術分析よりも、毎週の試合結果とそれを巡るドラマや人間模様、選手のストーリーやカルチョメルカート(移籍市場)のネタが好まれるため、ネット上で最も勢力が大きいのはメルカートを看板とするニュースサイトである。
 代表的なのは、『 TUTTOmercatoWEB.com 』、『 CalcioMercato.com 』、『 CalcioMercato.it 』といったところ。国際的なサッカーニュースサイトである『 Goal.com 』や『 YAHOO! SPORT 』のイタリア版(後者はスポーツ専門衛星TV局の『 EUROSPORT 』と提携)もメジャーな存在だ。いずれもコンテンツは、速報性の高いニュースが中心である。】



《ワールドサッカーダイジェスト:2011.11.17号_No.351_記事》
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欧州活字メディア事情_第2回:ドイツ編 [世界のサッカー事情]

[サッカー][目] [耳]
フットボールの“知りたい”を知る 大国別のメディア・カルチャーを徹底解明
欧州伝統国のメディア・カルチャーに迫る短期集中連載だ。第2回の対象国は、ヨーロッパ最大の発行部数を誇る全国紙『ビルト』が圧倒的な支持を集めるドイツ。その巨大メディアは勿論、専門誌や一般紙を含めた活字メディアの実態はどのようなモノなのか。

[ ビルトはあらゆる人の情報源 ]
バラック夫妻の別居を報じるなど、ビルト紙はあらゆる事情に精通。ただ、行き過ぎた報道が嫌われる原因にも。
いわゆる中央集権と無縁のドイツでは、地方メディアの持つ力が大きい。地元紙には勿論“名物記者”が。
ドイツにおける活字メディアの特徴は、何より地方色が豊かなところ。イギリスやフランスとは異なり、文化や情報の発信源が首都に一極集中していない。
 ヨーロッパ最大の発行部数を誇る全国紙の『ビルト』でさえ、都市によってスポーツ面の掲載内容を変えている。ベルリンならヘルタ・ベルリンとウニオン・ベルリン(2部)の情報を各1ページ、コットブス(2部)を半ページ。ハンブルクならハンブルガーSVとザンクトパウリ(2部)に、ミュンヘンならバイエルンと1860ミュンヘン(2部)に1ページずつを割いている。もし、ドルトムントの試合を観戦に訪れる機会があれば、国際線が発着するフランクフルトでは同紙を買わず、ドルトムントに着いてからの購入をオススメする。
 各チームの事情には勿論、地方紙も精通。ミュンヘンは『ターゲス・ツァイトゥンク』、『アーベント・ツァイツゥンク』、『メルキュール』、ヴォルフスブルクは『ヴォルフスブルガー・アルゲマイネ』、『ヴォルフスブルガー・ナハリヒテン』、ケルンは『エクスプレス』、ドルトムントは『ルール・ナハリヒテン』などが例外なく、地元クラブの練習場に足繁く通っては情報収集に励んでいる。長年の取材を通じて、チーム関係者と太いパイプを築き、それこそ何でも知っているという名物記者は少なくない。
 全国紙のいわば生命線は、北ドイツ番や西ドイツ番といった各地に配置している通信員の働きだ。各クラブで監督解雇など重大な動きがあれば、いつでも現地で取材できる態勢を整えている。
 いわゆる知識人向けの一般紙『南ドイツ新聞』や『フランクフルター・アルゲマイネ』、『ツァイト』、『シュピーゲル』なども、スポーツ面は充実している。スポーツの背景にある社会事情に絡めた記事が特徴的で、サッカーを深く読み解きたい人や、ドイツという国家に興味がある人は堪能できるはずだ。但し、高度なドイツ語力が必須となる。
 一方、大衆紙のビルトは、ピッチに関する情報やインタビュー記事だけでなく、選手のプライベートやチームの内情を暴露するゴシップまで実にバラエティー豊か。例えば、元ドイツ代表のローター・マテウスに新しいガールフレンドができれば、ほぼ間違いなくスクープするし、最近ではミヒャエル・バラックの夫人が、子供達を伴って引っ越した事実をすっぱ抜いている。2年前に電車に飛び込んだロベルト・エンケの悲報を最初に伝えたのも、同紙だった。各チーム事情に相当詳しく、読者をアッと驚かせるような仰天記事が少なくない。勿論、監督の解雇や新監督の選定といった人事にまつわる情報を掴むタイミングも速いため、同紙を毛嫌いしている監督やクラブ関係者は多いが、逆にこの巨大媒体を情報戦で活用する人達も存在。ビルト紙が報じたニュースを後追い取材するメディアも多く、あらゆるサッカー人にとって無視できない情報源となっている。
 そのビルトの日曜版が、『ビルト・アム・ゾンターク』だ。こちらは紙面内容が全国で統一されており、構成は週末の試合(日曜日の試合は除く)のレビューが中心。各選手に採点が付けられ、選手や監督のインタビューも掲載している。
 ビルトとは似ても似つかない『キッカー』も、サッカー好きには必携(ひっけい)の雑誌だ。1920年創刊という伝統を誇り、F1のレポート記事なども載せているが、ほぼサッカーの専門誌と言っていい。発売は週2回で、月曜版は少し厚めのボリューム。週末の試合全ての分析記事と、各選手の採点付きフォーメーションを載せている。各チームの番記者による旬な話題についてのレポートも好評。インタビューや特別企画のウケもまずまずだが、とりわけ戦術や統計好きから人気を集めている。更には2部以下のカテゴリーや、国外の情報もある充実ぶりだ。
 木曜版は週末の試合のプレビューが主体。月曜版に比べ娯楽度では劣るため、読者はコアなサッカーファンが多い。ワールドカップ優勝経験者や名将と謳われる指導者がコラムニストを務めている影響もあるのだろう。もっとも信頼できる活字媒体との定評を確立しており、クラブの首脳陣や監督、選手も喜んでコメントを寄せている。

[ “筋金入り”のファン向けは... ]
【ドイツでは近年、女性や知識人のサッカー好きが増えている。こうした人々の支持を集めているのが、『エルフ・フロインデ』(ドイツ語で「11人の友達」と言う意味)だ。ふたりの熱狂的なサッカーファンが2000年、当初は同人誌として創刊した雑誌で、「フットボール・カルチャーのためのマガジン」というコンセプトを掲げ、常にファン目線を意識しながら、物事を斜めから見たユーモア溢れる記事を売りとしている。この点はビルトの系列誌で、毎週木曜発売の『シュポルト・ビルト』誌などとの大きな違いだろう。選手の報酬や契約内容を暴露するのがシュポルト・ビルトなら、審判が持つイエローカードやレッドカードを製造する会社を訪ねたレオートを掲載したりするのがエルフ・フロインデという雑誌なのだ。また3カ月に一度の割合いで、エルフ・フロインディンネン(フロインディンネンは「フロイント」の女性形単語)という、女子サッカーの別冊付録を付けている。
 他には“筋金入り”のファンに向けた媒体も存在。ユースリーグやアマチュアリーグまでもカバーする雑誌だ。ルール地方の『レビア・シュポルト』、ベルリンの『フースバル・ヴォッヘ』などが有名で、当該地域の各試合を丹念に取材している。例えば後者は毎週、ベルリン・リーグ(カテゴリーは6部に相当)のベスト11まで選定している徹底ぶりだ。
 ここまでに挙げた紙媒体の殆どが、インターネット事業にも大きな力を入れている。ビルトの広告収入は、今や誌面よりもウェブサイトの方が多いようで、キッカーも電子版や携帯電話用アプリケーションを販売。ドイツのサッカーファン達の情報収集の仕方は、ここ数年で明らかに変わって来ている。
 インターネットサイトで人気を博すのは、『 transfermarkt.de 』だ。移籍マーケットの動向を日夜追い続け、ドイツだけでなく、全世界の選手の推定市場価格なども掲載。勿論、サッカーニュースも日々更新している。一般読者が移籍にまつわる噂を自由に書き込める掲示板の評判もまずまずで、それぞれのディスカッションが熱を帯びている。
 ファンの多様化するニーズに応える媒体が豊富に存在するのが、ドイツ活字メディアの実態と言えるのかも知れない。



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欧州活字メディア事情_第1回:イングランド編 [世界のサッカー事情]

[サッカー][目] [耳]
フットボールの知りたいを知る 大国別のメディア・カルチャーを徹底解明
国によってサッカー報道の在り方は様々だ。サッカーが生活に深く根付く伝統国であればあるほど、情報を求めるファンのニーズは多種多様だろう。果たして、欧州大国における活字メディアの実態とはどのようなモノなのか。第1回はサッカーの母国、イングランドだ。

[ 一部40円で買える『大衆紙』 ]
選手達は労働階級層の出身者が多いため、高級紙の読者は殆どいない。タイムズ読者のランパードは希少な存在。
サッカーの母国であるイングランドは、全国民がサッカーファンとも言えるお国柄だが、専門誌の数は意外に少ない。低年齢層向けの数誌を除けば、『 Four Four Two (フォー・フォー・ツー)』など、片手で数えられる程度の数だ。試合のテレビ中継はほぼ、有料衛星局であるスカイ・スポーツの独占状態で、誰もが観戦できるわけではない。ネット上のサイトはニュース的な『 Soccer net.com 』から、データ収集者向けの『 Soccerbase.com 』まで多種多様だが、アクセスしたい時にアクセスできるとは限らない。例えば、通勤・通学中にチェックしようと思っても、ロンドン市内の地下鉄は携帯電波の圏外なのだ。
 そうした事情もあり、サッカー好きな国民の情報源として定着しているのが、20の全国紙を初めとする新聞である。日刊紙は平日でも10ページ前後をスポーツに割き、その大半がサッカーのネタで埋まる。ゲームのプレビューやレポートで更にボリュームが増える週末には、見開きで選手や監督のインタビューが掲載されることも珍しくない。週刊ペースに換算すれば、その情報量は専門誌にも引けを取らない。つまり、愛読誌ならぬ「愛読紙」が存在するのだ。
 国民の愛読紙は「高級紙」と「大衆紙」に二分される。インテリ層やビジネスマンが手に取る高級紙では、『タイムズ』が有名だ。活字好きとは言い難く、かつ労働者階級層の出身者が多い選手の中に、保守的な高級紙の読者は殆どイナイが、私立校で義務教育を受けたフランク・ランパード(チェルシー)は、貴重なタイムズ愛読者のひとりだ。イングランド代表入りした当初は、朝食時にタイムズを読む姿が他クラブの選手達を驚かせた。世界のメディア王ことルパート・マードックの傘下にある同紙は、最大手だけに情報入手経路の数も内勤者の数も豊富。クラブ財政や移籍市場など、数字を扱う記事は充実しており、データの確度も高い。
 但し、高級紙のナンバーワンは『デイリー・テレグラフ』だ。執筆陣には、かつてアーセナルとイングランド代表でCFを務めたアラン・スミスがおり、1980年代にCBとしてリバプール黄金期を支えたアラン・ハンセンのコラムも好評。ハンセンは、BBCテレビが誇る伝統のハイライト番組『マッチ・オブ・ザ・デー』でもレギュラーを張る、人気のご意見番だ。2番手は、政治的には左寄りの『ガーディアン』。匿名の現役選手が週替わりで舞台裏を赤裸々に語るコーナーは異色で人気だ。ストーリー風の記事が多い国内紙の中で、デイビッド・プリート(元トッテナム監督)による戦術コラムを掲載している点も特徴と言える。
 カタや大衆紙は、その名の通り庶民の新聞だ。『サン』、『デイリー・ミラー』、『デイリー・メール』のトップ3は発行部数で高級紙を遥かに凌ぐ。この3紙は、日曜紙としても最大級。この夏、電話盗聴事件を切っ掛けに廃刊となった『ニューズ・オブ・ザ・ワールド』は、実質的に『サン』の日曜版だった。同紙に代わって現在、日曜紙トップの座を争っているのは、『サンデー・ミラー』と『メール・オン・サンデー』だ。
 人気の秘密は価格の安さ。平日発売の『サン』は、高級紙の3分の1以下の30ペンス(約40円)で買える。それでいて月曜版には、スポーツ面の他にプレミアリーグから4部リーグまでをカバーした、30ページ前後の別冊レビューが付いて来る。また、「タブロイド版」と呼ばれるコンパクトなサイズは、折り畳まなくても読み易く、新聞片手にスタジアム入りしても苦にはならない。
 そして何より、話題優先の姿勢が庶民の心をくすぐる。芸能ネタが一面を飾ることは日常茶飯事で、“セレブ”の一員としてサッカー選手も頻繁に登場する。例えば、不況の国内で大々的なデモが行なわれた7月のある日、『デイリー・スター』の一面には、ピーター・クラウチ(ストーク)の花婿姿がアッタ。コラムニストにも、『サン』がハリー・レドナップ(トッテナム監督)とイアン・ライト(元アーセナル)、『デイリー・ミラー』がロビー・サベージ(元ブラックバーン)と、歯に衣を着せぬ物言いで評判の人物が起用されている。選手のコメントを多用した記事も多く、外国人にも読み易いと評判だ。

[ サッカー記者は大衆の人気者 ]
長い歴史の中で、地域毎に深く根付いたサッカー文化がある。ご当地新聞と言うべき地方紙の人気も高い。
記者陣の質の高さは、大衆紙も高級紙も共通だ。国内では度々、作家や映画監督などの文化人が、活字文化衰退の例外として、“フットボール・ジャーナリスト”の手による日々の作品に言及している。記事のクレジットには顔写真も掲載されるのが通例であることから、各紙の花形記者は、ちょっとした有名人。試合前後にはテレビやスポーツ専門のラジオ局『トーク・スポーツ』などのレポーターから、マイクを向けられることも珍しくない人気者なのだ。
 チケットを買わずにサッカー観戦ができる上、世間の認知度まで伴うのだから、国民がサッカー記者を「憧れの職業」として挙げるのも頷ける。大手新聞社で公募があれば、1枠に千人単位の応募が殺到するという。最も、記者のキャリアは長く、門戸は狭い。66年ワールドカップのイングランド優勝をリアルタイムで取材したブライアン・グランビル記者は、重鎮として80歳になる現在も、『サンデー・タイムズ』上でトレードマークの鋭い試合評を披露している。
 そして、地方には「地元のグランビル」が存在する。全国紙では記者のヘッドハントもあるが、地方紙では、番記者歴ウン十年のベテランが地元クラブを追い続けている例が多い。4部リーグでさえ、昨シーズン平均で4千人超の観客を動員する国だけに、局地的なニーズも高いのだ。マンチェスター近郊の町、オールダムの地元紙などは、メディア嫌いで有名なポール・スコールズ(元マンチェスター・U)の独占インタビューに成功したこともある。オールダム・アスレティック(3部)のファンであるスコールズを相手に、地元コネクションの成せる業だった。極め付けは『ノンリーグ・ペーパー』。セミプロ以下(5部リーグ以下)に特化した週刊の「専門紙」は、なんと4万部前後を売り上げる。イングランドの新聞は、プレミアから草の根まで、サッカー文化の重要な一部なのだ。



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欧州大国のTV解説者事情(第1回)_イングランド編 [世界のサッカー事情]

[サッカー][目] [耳]
*** フットボールの“知りたい”を知る *** 試合中継を彩る     「名物キャラ」たち
 ピッチを離れたオフらしい企画をお届けする。「フットボールの“知りたい”を知る」と題して迫るのは、欧州主要国の解説者事情。どんな元選手が、マイク片手に試合中継を盛り上げているのか。第1回はイングランド編だ。

[熾烈を極める“定位置争い”]
選手のセカンドキャリアの中でも、花形のひとつと言えるテレビやラジオの解説者。サッカー観戦が庶民の生活に根付いているイングランドだけに需要は高い。地上波の旗頭である『BBC』では、「フットボールリーグ・ショー」という、2〜4部リーグのハイライト番組が毎週1時間20分枠で放送され、ラジオでは『トークスポーツ』というサッカーの話題が大半を占めるスポーツ専門局が存在するほどだ。主要局のレギュラー解説者ともなれば、日本円にして数千万から億単位の年俸も当たり前だ。
 それだけに、求職者の数は非常に多く、引退後のスポットライトを巡る“ポジション争い”は熾烈を極める。
 最大の出場機会を約束する職場は、衛星局大手の『スカイスポーツ』だ。同局は、プレミアリーグの大半とチャンピオンズ・リーグ(CL)の好カードの放映権を握っている。人気のレギュラーは、かつてリバプールやイングランド代表の中盤に華をもたらしたジェイミー・レドナップ。当初はルックス先行の感が否めず、グレン・ホドル、ルート・フリット、グレアム・スーネスなど現役時代のステータスに勝る“先輩”の意見に押されがちだった。だが、転職7年目の現在は、彼らとの論争にも負けない“エース”としての風格を見せるようになっている。
 スカイには「サッカー・サタデー」という実況番組がある。各地の試合速報を伝える司会者の脇で、モニター観戦する4〜5名の解説陣が「ゴォ〜ル!! 」などと叫ぶとカメラが切り替わり、その解説者が興奮状態で直前の出来事について捲し立てるというものだ。生中継と比べると解説者としての格は落ちるが、ポール・マーソンなどは古巣のアーセナルやアストン・ビラへの肩入れ丸出しの反応が良くも悪くも評判だ。
 BBCの解説陣も、一流として胸を張れるだろう。47年の歴史を誇る「マッチ・オブ・ザ・デー(MOTD)」は、プレミアのハイライト番組の枠を超えた、英国随一のサッカー番組だ。土曜夜の定番で司会を務めるのは、W杯得点王の肩書きを持つガリー・リネカー。スタジオの“チームメイト”は、1980年代のリバプール黄金期を支えたアラン・ハンセンとマーク・ローレンソン。引退から20年近くが経った今も、3人は元FWと元DFという感覚の違いを生かした分析や、余裕のジョークを織り交ぜたトークで安定した人気を博す。
 この絶対的なトリオに割って入ることに成功したのが、5年前に現役を退いたアラン・シアラーだ。CFとしての屈強なイメージとは違い、その滑らかな口調や低迷が続く古巣ニューカッスルのネタで先輩の3人に弄(いじ)られても、笑顔で応じる柔和な姿が定位置獲りに繋がった。女性視聴者の間では、「シャツのセンスが良い」という、これまた意外な定評もあり、代表エースの座に続いて、MOTDの司会者の座もリネカーから受け継ぐだろうと言われている。
 日曜日や月曜日のリーグ戦は、「MOTD2」という追加のハイライト番組でカバーされる。土曜レギュラー陣に代わって登場するのは、リー・ディクソンとマーティン・キーオン。90年代のアーセナルで鉄壁の4バックを形成した元DFだが、現在の役回りはMOTD陣の控えといったところ。彼らは、BBCが土曜昼に放送するプレビュー番組「フットボール・フォーカス」でも腕を磨いている。
 地上波大手の『ITV』は、スカイとはCL、BBCとは代表戦とカップ戦の放映権を分け合っている。解説陣の地位は、いわば1.5軍。主力は、90年代にチェルシーやアストン・ビラでMFとして活躍したアンディ・タウンゼンドと、ミドルスブラなどでCBとして存在感を放ったガレス・サウスゲイトだが、揃って解説内容は評価されているものの、キャラクター不足が指摘されて久しい。今年から、エリート選手育成の責任者としてFA(イングランド・サッカー協会)に雇われているサウスゲイトには、今夏の欧州選手権でUー21代表が早期敗退に終わると、「メディアでのキャリアは諦めて、育成の仕事に専念した方がいい」という声が高まった。】

[新人ネビルに「甘い」の声も]
昨シーズン途中に引退したネビルは、スカイスポーツの解説者に。第二の人生でも“エリートコース”を歩むのか。
【プレミア放映権の一部を持つ『ESPN』の解説陣は“やや格下”と見なされている。バロンドール受賞者のケビン・キーガンを筆頭に、ブラジル人ばりのドリブルを披露したジョン・バーンズ、快足を飛ばしてファンを魅了したスティーブ・マクマナマンなど、常連には元スター選手がいる。だが、BBC勢やスカイスポーツ勢と比べるとコメントにキレを欠き、ESPNでの研鑽が続く。
 最も、最大の売りがヨーロッパリーグ(EL)中継という『チャンネル5』の解説者に比べれば、扱いは上だ。地上波マイナー局での仕事は、下部リーグでプレーするようなものだろう。但し、スタン・コリモアは密かに人気を高めている。同局での中継は頻度自体が限られるが、兼任する前述のラジオ番組『トークスポーツ』での熱心な仕事ぶりが評価されているのだ。
 冬の長いイングランドで、かつてのチームメイトのレドナップやマクマナマンがデザイナースーツ姿でスマートにスタジオ解説をしている時、コリモアは現場に立ち、防寒服の完全武装でマイクを握っている。中継直後には「コール・コリモア」という、内容そのままのリスナー参加番組での司会も務める。会場のプレス席付近では、クラブの党派を問わず、「スタン、いつも聞いているよ」と声を掛け、コリモアに握手やサインを求めるファンの姿が良く見られる。
 局の大小や環境の格差はアッテも、解説者として定位置確保に成功した元選手は幸運だ。趣味のギャンブルの合間に、パート感覚で解説業を楽しむテディ・シュリンガムのような例は別にして、現役時代に抜群の実力と人気を誇った人物が、解説者として挫折を味わうケースは少なくない。
 ポール・ガスコインは02年W杯で解説に挑戦したが、強烈なジョーディ(ニューカッスル地方)訛りにアルコール依存症の影響も加わり、「何を言っているのか分からない」と呆れられた。元アーセナルのイアン・ライトは、感情に素直過ぎるコメントが「ファンと変わらない」と不評だった。「解説席で口を開くぐらいなら、歯医者の椅子の上で口を開けている方がマシだ」とまで言ったように、スタジオの水に馴染めなかったロイ・キーンのような例もある。
 新シーズンからは、引退したばかりのガリー・ネビル(スカイスポーツ)とロビー・サベージ(ESPN)が、フルタイムの解説者としてスタートを切る。熱血漢のネビルが、「ユナイテッドに対しても正直に物を言う」と古巣にも容赦なしの全力投球を宣言すれば、長髪で日焼けサロンにも通うサベージは、「目指すはハンセンのお洒落バージョンさ(笑)」と成功を夢見ている。一方で、リネカーがラジオから地道に修行を積んだ点を指摘しながら、両者に対して「甘い」とでも言いたげなメディア内部の意見も少なくない。ピッチを去った後でも、トップへの道は険しいのである。】


《ワールドサッカーダイジェスト:2011.8.18号_No.345_記事》
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