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CALCIO_解 体 新 書_№17 [世界のサッカー事情]

【今回の分析対象】FC BARCELONA 唯一無二の“両立”
究極とも表現できるボールポゼッションをベースとしながら、 隙あらば効果的なカウンターアタックを躊躇なく繰り出せる。 そうした両立を高度に実現している唯一無二のチーム。 最強バルサの攻撃、更にはその背景にある“哲学”を、 現役イタリア人監督のロベルト・ロッシ氏が改めて検証してくれた。

[ グアルディオラ時代よりも カウンターへの意識は——— ]
 【監督が交代したとはいえ、大きくは変わらない。特筆に値するようなバルセロナの新機軸はナイというのが、分析を終えての一つの結論だ。
 新指揮官のティト・ビラノバが専念しているのは、2012年夏の監督就任時に既に完成していたスタイルの熟成という印象が強い。サッカーのコンセプトから具体的な戦術まで、ジョゼップ・グアルディオラ前監督の路線を受け継いでいる。
 最大の違いは、システムを4-3-3に固定しているところだ。グアルディオラが昨シーズン、チームへの刺激も狙いとしながら導入した3-4-3は完全に棚上げしており、今回分析した1月13日のマラガ戦(リーガ・エスパニョーラ19節)にも4-3-3で臨んでいる。
 先発メンバーをご覧になって頂きたい(図①)。11人中、ダニエウ・アウベスとハビエル・マスチェラーノを除いた9人がカンテラ(下部組織)の出身だ。とりわけ中盤から前の6人は、シャビ、セルヒオ・ブスケッツ、セスク・ファブレガス、ペドロ・ロドリゲス、アンドレス・イニエスタ、そしてリオネル・メッシと、全て生え抜き。改めて、驚かされた。
 後述する通り、昨今のバルサは安定したボールポゼッションを土台としながらも、攻撃のあらゆるバリエーションを使い分ける完成度の高さに達している。レパートリーに含めているのは、ボールロスト後のアグレッシブなハイプレスに引き続くショートカウンターだけではない。状況次第では自陣ゴール寄りでボールを奪い返した後、グラウンダーの縦パスをスペースに繋ぐミドル/ロングカウンターを繰り出せる。長駆(ちょうく)のカウンターを見せる機会が限られているのは、殆どの試合で主導権を握り、ほぼ敵陣だけでゲームを進める展開となるからだ。それこそ敵のコーナーキックのこぼれ球で始まる逆襲でもない限り、いつものポゼッションサッカーを遂行する。
 マラガ戦が興味深い内容になったのは、この対戦相手が正面からの戦いを挑んで来たからだ。引いて守りを固めてくる格下の相手を遅攻で崩す多くの試合と比べると、バルサが本来持っている攻撃のバリエーションを披露する機会が多かった。
 比較対象としたグアルディオラ監督時代の試合は、セスクが未だアーセナルに在籍していた頃のチャンピオンズ・リーグ。ホームのアーセナルが善戦し、バルサを2-1で下した10-11シーズンの決勝トーナメント1回戦だ(図②がバルサの先発メンバー)。
 バルサが見せたのはコレクティブなサッカーで、敗れたとはいえ内容的には非常に質の高い試合だった。アーセナルがラインを押し上げ攻勢に出てくれば、カウンターアタックを試み、早めのタイミングで裏のスペースにボールを送り込む。アーセナルが引いてくれば、ポゼッションでじっくり押し込んでから、コンビネーションによる崩しを狙う。敵陣でボールを奪われたら、アグレッシブなハイプレスで直ぐさま奪い返そうとする。状況に応じて的確な戦い方を選びながら、それを組織的に遂行してみせたのだ。
 その点ではマラガ戦の内容にも、共通点が多かった。いつものバルサとはいささか異なるパターンで決めたのが、後半立ち上がりの50分にセスクが奪ったチームの2点目だ。
 敵陣の浅いところで、バルサのD・アウベスがボールを奪い返す。攻撃の起点となったのはパスを受けたメッシで、センターサークル付近でボールを持った(画像①)。メッシはブスケッツとのパス交換でマークを外し、完全にフリーになって前を向く。この時マラガの最終ラインはペナルティーエリアから15㍍前後の高さに押し上げており、背後には30㍍ほどのスペースが出来ていた(画像②)。
 次の選択でマラガの最終ラインがリトリートを選んでいたら、メッシはドリブルで仕掛けるか、近くにいたイニエスタ、もしくはD・アウベスとのコンビネーションで崩そうとしていただろう。ところが、マラガの最終ラインが試みたのは、高さを保ったうえでのオフサイドトラップだった。ボールが“オープンな”状態だったにもかかわらずダ。
 イニエスタとポジションを入れ替え、左ウイングの位置に大きく開いていたセスクは敵最終ラインのこの動きを見て、裏のスペースに向かってダイアゴナルに走り込む(画像③)。メッシはセスクの走り込むタイミングに合わせ、“浮き球で”およそ25㍍のラストパスを送り込んだ(画像④)。
 いつものバルサであれば、グラウンダーのショートパスによるコンビネーションや1対1の突破でボールを“浮かさずに”敵の守備ブロックを崩し切る。それに照らせば縦に速い展開だったのは確かで、少々珍しい形のゴールだった。
 マラガ戦のバルサはセスクのこのゴールシーンを別にしても、早めのタイミングで裏のスペースを狙う攻撃を何度か見せている。

[ 基本のプレーコンセプトは 常に同じで一つなのだ ]
検証の比較材料としたのはセスクがまだ敵だった時代のアーセナル戦。バルサの“哲学”は当時から変わらない。
確認しておこう。「ボールポゼッション」そのものが、バルサのサッカーの基本コンセプトなのではない。ポゼッションはあくまで手段であり、目的は「敵最終ラインの裏で味方をフリーにしてボールを持たせる」トコロにある。敵のGKとの1対1に持ち込み、シュートを撃てる決定機を作り出そうとしているのだ。
 勿論ボールを支配して主導権を握ることで、自分達のペースに持ち込んで試合を進めようとしている側面はある。それでも、目的はやはり別にある。敵にボールを与えず、即ち攻撃の機会を与えない。そうした状態を保ちながら、ボールを動かし、相手を振り回す。結果、守備網にスペースやギャップを作り出し、最終ラインの裏のスペースにボールと人を送り込む。ポゼッションの目的はそこにある。付け加えればこうした攻撃は、守りを固めてくる相手を攻略し、決定機を作り出せるほぼ唯一のアプローチと言っていい。
 話が違ってくるのは、マラガ戦のように敵が最終ラインを押し上げ、背後にスペースを残している場合だ。バルサはできるだけ素早く、そのスペースを突こうとする。アーセナル戦を含めて縦に速い展開が相対的に増えたのは、そうした機会を敵が与えてくれたからであり、それ以外の理由はない。基本となるプレーコンセプトは常に同じで、ひとつなのだ。
 セスクのゴールにしてもその個性に帰するというよりは、バルサのプレーコンセプトや戦術から生まれたものと捉えるべきである。確かにセスクというプレーヤーは、例えばイニエスタと比べれば、オフ・ザ・ボールで裏のスペースに走り込もうとする意識がより強い。マラガ戦の得点シーンを振り返っても、メッシからのラストパスを引き出したのは、イニエスタとポジションを入れ替えたセスクが最終ラインの裏に走り込んだからだった。あそこにイニエスタがいたら、裏に走り込むのではなく足下にパスを引き出す動きを見せていたかも知れない。とはいえ、例えばダビド・ビジャ、アレクシス・サンチェス、ペドロといったアタッカーであれば、セスクと同じようにオフ・ザ・ボールの走り込みでスルーパスを引き出し、敵の最終ラインの裏側を突く機会を逃さなかっただろう。そうした動きのパターンが、チーム全体に浸透しているからだ。
 昨今のバルサが偉大なのは、究極とも言えるポゼッションサッカーを体現しているだけでなく、状況ごとに異なる、それでいて最も効果的な形でゴールを奪えるからなのだ。チーム全体が共有している同じビジョンで状況を捉え、阿吽の呼吸としか言い様のない意思疎通、組織的な連携でそれを見事に打開してみせる。このチームの偉大さはポゼッションだけでなく、カウンターアタックでも変わらない。
 あれだけ高いボール支配率を保ち、常に主導権を握って戦いながら、しかも切れ味鋭いカウンターアタックを繰り出せる。ボールロストの直後からアグレッシブなはいプレスに転じ、敵陣の高い位置で即座にボールを奪い返しては、そのまま一気に攻め切れる。
 そうした一連の展開を可能たらしめているのが、前線のアタッカーたちによる守備参加。メッシ、ペドロ、ビジャ、サンチェスのいずれもがディフェンスをサボらず、インテンシティーの高いプレッシングの担い手となる。ボールポゼッション中のプレーリズムは比較的スローでも、ボールを失った直後の守備ではインテンシティーが一気に高まる。
 こうしたネガティブ・トランジション(攻→守の切り替え)、即ちハイプレスの浸透により、カウンターアタックを喫するリスクを最小化しているのが今のバルサだ。更には短時間でのボール奪取からの、つまり素早いポジティブ・トランジション(守→攻の切り替え)からのショートカウンタに繋げようとする。それが守備戦術の基本となっている。
 いわば二段構えの構造だ。アグレッシブなハイプレスからのショートカウンタを第一の狙いとし、ボール支配が確立したあとはポゼッションでじっくりとした攻めを見せる。難易度の高いこうした両立が可能なのは全選手が同じサッカー哲学を共有してうえで、自分達のスタイルに絶対の確信を持ち、組織的なメカニズムを機能させるために献身的にプレーしているから。チームに独善的な、例えばロナウジーニョ、サミュエル・エトー、ズラタン・イブラヒモビッチあたりがいたら、機能し得ないメカニズムなのである。
 この“同質性”こそ現在のバルサの神髄であり、それが他のクラブには真似できない絶対的な違いを作り出している。ここまで徹底したやり方で特定のスタイルを追求し、実現しているクラブは何所にも存在しない。そうした取り組みをしているクラブすらないのだから、バルサは唯一無二だと表現できる。




《ワールドサッカーダイジェスト:2013.2.21号_No.381_記事》
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